日本ブームがやって来たぁ?

 ようやくここデリーに出来始めたコンビニエンス・ストアーを覗いたところ、なんと日本の某有名メーカーのお菓子が陳列されているではありませんか。こちらでは、いわゆる輸入物ですから日本で購入するよりも数倍高い値段がついていましたが、思わず日本恋しさに1つ購入しました。喜び勇んで自宅に帰り、もう一度そのお菓子のパッケージを確かめてみると、残念ながらその商品は日本のメーカーの物には間違いありませんでしたが、日本産ではなくシンガポールで作られた物でした。とはいえ、今まで車や電化製品以外で、日本のメーカーの商品を見つけることが少なかったので、例えシンガポールから来た物とはいえ、我々インド在住日本人にとっては、今まで中々手に入らなかった外国産お菓子が身近になったのはちょっとしたニュースです。
 遅まきながら、ただ今インドにも日本食ブームが到来。今まで5スターホテルのレストランか、バックパックを背負った旅行者が集まる安宿街にあるなんちゃって日本食を出すレストランでしか食べられなかった日本食が、ようやく一般の人々が集まる繁華街でも食べられるようになりました。ヴェジタリアンが多いインドで、生のお魚を使うお鮨が普及するとは考えにくいとさえ言われてきましたが、セレブと呼ばれる人々の間でお鮨が大流行。なんとインドの今時トレンドは、お箸を上手に使ってお鮨を食べることなのだそうです。
 美しく着飾った女性たちが四苦八苦しながらお箸と対決している姿は、普段は近寄りがたくどこかツーンとしたイメージの強い彼女達だけに、どこかコミカルでもあり、微笑ましくもあり、思わず応援したくなってきます。あまりにもおぼつかない手付きを見せ付けられ、逆にこちらがハラハラしてしまい、お鮨を落としそうになったこともありました。頼まれもしないのに、お箸の使い方を伝授しに彼女達のテーブルに行こうかと思ったことも一度や二度ではありません。
 新聞や雑誌でも、焼き鳥やお鮨などの日本食が食べられるお店や、デリバリーの出来るお鮨屋さんや、海老の踊り食いに到るまで紹介されていますが、その写真の中でも、日本料理屋のテーブルの上でも、脇を努めるのは日本酒ではなく残念ながら今はやりのワインが大多数。
 EUが、インドがワインなどの酒類の輸入に高い税金をかけている事に対してWTOに提訴したことは前にもご紹介しましたが、そのおかげでインド国内でのワインの地名度がますますアップ。値段も一時期に比べて大分落ち着いて来ました。
 それに比べて日本酒はというと、日本酒の存在を知っている人を見つけ出すのが難しいレベル。昨今の急速な中印関係の改善のおかげか、「中国の紹興酒は知っているけれど日本に特有のお酒なんてあったのかい?」などと質問を受けてしまう程でした。こうなったら、何がなんでも日本酒を売っているお店を見つけるんだと、デリー中の酒屋という酒屋を回ってみましたが見事に惨敗。唯一見つけたのは日本食材店にある調理酒でした。
 もちろん、日本酒をサービスする日本料理屋はあるものの品揃えは悪く、本当に美味しいお酒はない。美味しい日本酒がインドに届くのはまだまだ先になりそうです。(いけだみえ:フォトグラファー・ライター、ニューデリー在住)

月刊 酒文化2007年08月号掲載