インドワインブームに驚いた!!

 インドの酒メーカーの商品は、ウオッカにしろ、ラムにしろ、ウイスキーにしろ、カクテルに使って、多少味や癖が分からなくしたからといって、油断して2杯飲めば、翌朝は必ず頭痛。3杯飲めば悪酔いする。そんな苦い経験を誰もが身を持って積んできているだけに、インドに長く在住する日本の人達の間では「インドメーカーのお酒は、一部の銘柄を除いては不味いどころか健康にも悪い」というのが常識でした。まして、ワインは「インドワインなんて、料理用に日本で売られている物にも劣るわよね」というのが、共通認識でした。
 そのため、年に1回ホテルで行われるインターナショナル・バザールでは、普段は上品に装っている駐在員のマダムたちも、この日ばかりは、髪を振り乱し、ものすごい形相をして、ワインを求めにフランスをはじめとするワインの産地がある国のブースへ大突進。並びなれない長蛇の列の中にまじわり、マナーの悪いインドの方たちの割り込みも、この日ばかりは許さず、なんとか目的のワインをゲットするのが慣わしになっていました。
 そんな在住日本人の常識を覆す発言が、先日、日本から来た、知人により発せられたのです。
 曰く「ただ今日本にて、一部の人たちの間でインドワインがブーム。しかも、売り切れ続発で、予約待ちなんていうのもざらだ」と。
 誰もが信じられないこの言葉を確認するべく、試しに「インドワイン」とインターネットで検索すると、確かに出てくるわ、出てくるわ。「三ツ星レストランのシェフが認めた味」、「世界が注目するワイナリー」などとのキャッチフレーズと一緒に、日頃酒屋さんで良く見かけるボトルが写真入りで紹介されているではありませんか。
 この事実に驚いた私達は、残念ながら誰もがソムリエばりの舌を持っていませんが、美味しいワインかそうではないかの判断ぐらいはできるはずだと、さっそくwebサイトに紹介されていたのと同じ銘柄のワインを購入し、緊急試飲会を催すことにしました。
 さぞかし、おいしいワインで驚かされるに違いない。新しい発見かとの期待に胸を膨ませながら試飲しましたが、「料理用のワインよりも劣る」という事はないものの、ずば抜けて美味しいという程の物でもないというのが全員一致した意見。
 確かに、値段のわりには、飲みやすい。でも、この程度のワインで、なぜブームが起こるのだろうか疑問に思ってしまう程です。「世界が認めた味」というのは、かなり、表現が大げさな気がしました。
 ただし、インドでは、ワインの保存管理が徹底されておらず、出荷されてすぐに船などに乗せられ、海外に渡り、しっかりと管理されているワインとは味が違う可能性はあります。また、あまりにも苦い経験が多すぎる私たちにとって、インドのお酒がまずいという先入観が強すぎて、冷静な判断を鈍らせている可能性もあります。
 今回は試飲だったので、味を見ることにのみ集中していましたが、レストランやバーなどの雰囲気の良い場所で、楽しい会話と美味しい食事と伴にグラスワインとして飲んでいたら、案外美味しいと感じていたかもしれません。
 なんだか少し変な話ですが、インドワインをじっくりと海外で味わってみたいと感じた不思議な試飲会となってしまいました。
(いけだみえ:フォトグラファー・ライター、ニューデリー在住)

月刊 酒文化2007年10月号掲載