ノン・アルコールでほろ酔気分?

 十数年前、私が卒業した都立高校は、どこかのんびりとしていました。そのせいか、文化祭や体育祭の後など、生徒たちが集まって祝杯を挙げそうな日は、先生御自ら「今夜、先生たちは新宿で飲むからな」=「(解釈によっては)新宿では、鉢合わせになるから絶対に飲むなよ」=「(更に拡大解釈をすると)新宿以外で打ち上げをするならば、目をつぶるからな」などと告知をしてくださっていました。私自身が、一番初めに日本酒を飲んだのも高校時代。部活の顧問だった先生に、他校との交流試合の後に連れて行ってもらった、居酒屋にて、でした。
 始めて口にした日本酒の味が、美味しかったというよりも、未成年でお酒を飲んでしまった罪悪感と、これで大人の仲間入りが出来たのかなと、ちょっぴり誇らしげな気持ちが入り混り、複雑な味だったことや、次々にグラスが空いていく生徒たちの飲みぷっりを、赤ら顔で見守ってくださった先生の表情は、今でも忘れられません。
 もちろん未成年の飲酒は、法律で禁じられていますが、時代が許してくれたのか、はまたま通っていた高校が寛大だったのか、懐かしい思い出です。
 「お酒の飲み方」というような物があるとするならば、それを先生から教わったような気がします。
 高校時代からというのは、少し早いかもしれませんが、大学へ通いだす年齢にもなれば、お酒に興味を持つのは、インドの若者も同じです。ただし、インドでは日本に比べて、宗教や社会的な規範に強く縛られているため、生徒に社会勉強をさせようなどと粋な考え方をする、先生は皆無です。
 代々、親の職業を継承することが望まれるなど、未だに保守的な家庭も多く、生まれてから一度もお酒を飲んだ経験がないという方々が、実は多くいらっしゃいます。
 そのせいか、最近の若者の間ではお酒に対する羨望が強く、デートの時など、背伸びをしたい時によく飲まれるのは、モクテル(ノン・アルコールのカクテル)やフルーツ・ビールといったお酒を似せて作られた飲み物です。
 グラスに注がれたカラフルなモクテルに、レモンの輪切りやオリーブなどが添えられれば、それがカクテルなのかモクテルなのか見ただけでは分かりません。実際味わってみても判断が難しいことさえあります。
 思い込みとは恐ろしい物で、りんごの味がするフルーツ・ビールをベルギーなどで売られている、いわゆる「アップル・ビール」と勘違いして飲んだ友人は、アルコールが含まれていないにもかかわらず、それを飲んだだけで、酔っ払ってしまったそうです。自他共に認める飲兵衛の彼女でしたが、フルーツ・ビールの安さと爽やかな喉越しに味をしめ、一度ならずも数回、それに、アルコールが含まれていないと分かるまで、酔っ払い続けたそうです。
 「一口飲むと、実際に体が火照ってきたような気がしたの。お酒好きの私が、味覚というか体感というべきか、アルコールが入っていないと見破れなかった自分に愕然としたわ」というのが、彼女の弁。
 「病」は気からと言われますが、「酔う」というのも、どうやら、その場の雰囲気やその時の気分が強く作用しているようです。
 ひょっとしたら、彼女のように、モクテルやフルーツ・ビールをアルコール飲料と間違えて飲み酔っ払い続けている人は案外多くいるのかもしれません。
(いけだみえ:フォトグラファー・ライター、ニューデリー在住)

月刊 酒文化2008年02月号掲載