インドってお酒が飲めるの?

 「インドってお酒が飲めるの?」と、なぜか最近立て続けに質問されることがありました。偶然が重なっての質問なのか、それとも、何か理由があって質問される機会が増えたのかは分かりませんが、そのような質問を受けた場合は、「基本的には問題なく、お酒が飲める国です」と回答するようにしています。「日本でも、インド料理レストランでは、『キングフィッシャー』という銘柄のインドビールを出すお店もあり、アマゾンでも、インド産のワインを購入することができますよ。お酒が飲めない国が、お酒を製造し、輸出することはできないのではないですかね」と、付け加えると、皆さん納得してはいただけるのですが、日本から見るインドは、まだ、どこかベールに包まれていて、宗教色が強いミステリアスな印象を受けるのかもしれません。
 「基本的には」と返答する理由はいくつかあるのですが、インドでは酒類の販売が禁止されている州があったり、ドライデイと呼ばれる、酒類の販売ができない日が、年に数回あるためです。
 そして、もうひとつ大きな理由があり、それは、ここインドでは、いつ何が起こるのか分からないからです。二〇一六年一一月には、四時間後に高額紙幣を廃止するとの発表があり、実際に四時間後から、財布に入っている紙幣が、単なる紙切れになってしまったという出来事がありました。もちろん、期間限定で、廃止された紙幣を銀行などに持ち込めば、新紙幣に交換する措置は取られましたが、新紙幣の準備不足もあり、銀行には長蛇の列ができました。しばらく日常生活に多大なる支障をきたす出来事だった事は、記憶に新しく残っています。 
 実は、昨年お酒にまつわる出来事でも、一晩にして歓楽街の夜の明かりが消えてしまう出来事がありました。インド最高裁判所が、多発する飲酒運転を撲滅するために、国道と州道から五〇〇メートル内での酒類販売を禁止し、対象をホテルや飲食店での提供も含めたのです。多くの日系企業が集まるグルガオン地域では、国道沿いに沿って街が発展してきたこともあり、多くのお酒を提供するレストランやホテルが国道沿いにありました。それらはほぼ全滅で、お酒が提供できなくなり、おつまみとソフトドリンクを提供する飲食店になってしまいました。
 でも、ここで負けていないのが、インドのスピリットです。規制対象が国道や州道から五〇〇メートル以内であるならば、店の入り口を国道や州道から五〇〇メートル以上離すようにすればよいという逆転の発想をしたのです。今までの裏口として利用していた所を店の入口に変えてみたり、店の前に迷路のようにくねらせた道をつくるなど工夫を施したりして、徐々に規制を切り抜ける飲食店やホテルが増えはじめたのです。その結果、五か月後には、酒類販売禁止令が緩和され始めることになりました。
 やはり、ここインドでは、いつまでも、「基本的にお酒は飲める日々」が続くのではないかと思う今日この頃です。
(いけだみえ・インド在住)
2018年特別号下掲載

月刊 酒文化2018年10月号掲載