地産の果実をたっぷりと

 野菜から鮮肉、魚介、米、豆の類いまで一堂に揃うのが中国の市場。その中心には、季節を問わず彩り豊かな野菜や果物が並んでいます。産地を尋ねれば輸入物はわずかで、近隣の農家からであったり、はるか西方や年中温暖な南方産であったり、冬には凍てつく北方産であったり。中国の市場にずらりと並ぶ国産食材から、改めて国土の広さを実感させられます。
 上海あたりの豊かな都市では消費者物価がうなぎのぼりです。それでも、輸入物などの高級食材は別として、野菜やフルーツなどはまだ手ごろな価格で庶民の生活の支えとなっています。日本では高価でなかなか手の出ないマンゴーやイチゴ、枇杷などにしても、中国では日本円にして500円もあれば山盛り食べられます。
 いまでは一年中市場に出ているスイカは、夏が一番おいしくて安く、大きめのものでも1個100〜200円ぐらいです。夏に中国人がひとりでスイカを1〜2個ぺろりと平らげることはごく普通の話。水事情のあまりよくない中国では、スイカなど安くてジューシーな果物は、生水にかわって水分補給のできる食材です。この中国というフルーツ天国では、毎日の食間・食後に山盛りのフルーツを食べたものでした。
 私の住んでいた蘇州市は少し郊外に足を伸ばすだけで、素朴な田園風景に出会えます。蘇州市西部には太湖に面した半島の東山、小さな島の西山があり、この一帯は蘇州の銘緑茶「碧螺春」の産地として、また、フルーツの産地としても有名です。春から初夏、東山から西山にかけての一帯は旬のフルーツ狩りなど週末の行楽を楽しむ人々でにぎわいます。
 西山の梅狩りでは、大胆にも農家の主人が木に登り、杖で枝をたたき、体重で木をゆすってという荒業で、梅を落とします。地に落ちた梅からキズの少ないものを選んでいっても、籠の中はまたたくまにいっぱいになります。初夏の梅狩りでは、大きな籠いっぱいの梅が日本円で100円ほど。フルーツ狩りの帰り道はいつも、山ほどの収穫をかかえてホクホクとなります。
 持ち帰った梅は、紀州の大きな梅に比べれば小さめのものですが、味は良く、ことこと煮た梅ジャムは子どもに人気。10日ほどでできる甘酸っぱい梅ジュースは、湿気の多い季節にうってつけの飲み物です。そして、じっくり寝かせた梅酢や梅酒は、大人の待ち遠しいお楽しみとなります。干し梅の「話(ホア)梅(メイ)」をはじめ、梅はおなじみの中国。それでも、梅酒は日本ほど広く嗜まれてはいないようです。市販の梅酒を見つけることは難しく、梅酒を用意しているバーや居酒屋さえほとんどないようです。梅酒好きの日本人なら安い青梅を手に入れて自宅で梅酒を作るほうが近道です。
 日本では希少なヤマモモは、中国語で楊(ヤン)梅(メイ)と呼ばれ、広く愛されている果物。白酒に漬けたヤマモモ酒は、咳止めや整腸など、体調を整える効果があり、薬用酒として一家に一瓶置かれていると聞きます。現地で聞いたとおりに、ヤマモモをマオタイ酒に2週間ほど漬け、酒をなめてみると、白酒がむせるようでおいしいとは程遠い味――良薬口に苦しです。
 つまるところ、フルーツ酒はいつもの焼酎と氷砂糖にじっくりと馴染ませて。素材のフルーツをふんだんに、惜しみなく使えるのはうれしい限りです。(いしはらあきこ:フリーライター、2003年〜2006年蘇州在住)

月刊 酒文化2007年01月号掲載