ブラジルのワイン事情

 南米のワインでは、チリやアルゼンチン産が有名だが、実はブラジルでもワインがつくられている。その歴史も古く、ポルトガル人にブラジルが発見されて間もない1532年にはMartin Afonso de Souza氏がサンビセンチというサンパウロ州の海沿いの町にワイン用のブドウの木を植えて失敗している。
 結局、ブラジルでワイン製造に合った土地と気候は、リオ・グランデ・ド・スール州というブラジル南端の州で、アルゼンチンやウルグアイと国境を接している一番寒い州である。ブラジルは南半球にあるので、北が暖かく、南が寒い。また、移民の国だからポルトガルはもちろんイタリア、ドイツ、レバノン、スイス、アフリカ、日本と世界各国からの移住者がいるが、面白い事に北緯と南緯に違いはあれど、ほぼ同じような緯度に住む傾向があるという。だから、アフリカなど暑い国から移民した人々は暑い地域に、ドイツなど寒い国の人はブラジルでも寒い地方に住んでいる。
 初めてブラジルでワインづくりに成功したのはドイツ移民だった。1624年、イエズス会の神父がミサのためにつくったワインが最初である。その後、イタリアからの移民がワインづくりを拡大。現在はリオ・グランデ・ド・スール州がブラジルワインの90%以上を生産し、その他、サンタカタリーナ州、ミナス州、サンパウロ州などで僅かながらつくられている。
 近年、注目すべき産地として、バイア州、ペルナンブッコ州という北部の暑い地域でのぶどうの栽培とワインの製造がある。従来では考えられなかったような熱帯地域での栽培・製造だ。実はこの両州、土地が大変痩せており、雨の降らない半砂漠地帯であった。そこに日本人農業者が入植し、大規模な灌漑用水を開始。現在では世界で唯一、年に2度ぶどうが収穫できる珍しい生産地となり、同地での高品質なぶどうが注目されつつある。
 さて、そんなブラジルのワインのお味は、どんなものであろうか。日本でソムリエの資格を取った友人によると、「値段の高い、ある程度以上のワインはきちんとつくっているし、アルゼンチン、チリ産に負けない美味しいものがある」とのこと。
 スーパーのワインコーナーに行けば必ず見かけるブラジルワインのブランドMioloなどは、広大な畑を所有し、自社でさまざまな種類のワインを製造販売している。その他にもSalton、Auroraなど大規模なワイナリーが何社かあり、家族経営のような小さなワイナリーもたくさんある。
 また、ドン・ペリニヨンで有名なフランスのモエ・エ・シャンドン社は、ブラジルのスパークリングワイン(=エスプマンチ)醸造に出資。同じ製法を指導し、世界でプレミオ(賞)も受賞している。ソムリエの友人いわく「ブラジルの白とスパークリングワインのレベルは高く、値段も手頃」とのことだ。
 クリスマスから年末年始にかけて、ブラジル人はスパークリングワインをパーンと開けて、祝う事が多い。クリスマスは家族と過す大切な日で、七面鳥のご馳走とスパークリングワインで乾杯をする。大晦日は恋人同士や友人達とビーチで花火を見ながら過すのが一般的。カウントダウンが始まり、0時と共に花火が打ち上げられる。そして、その音と共にスパークリングワインの栓があちこちでパンパンと抜かれる。私もかつて、まったく知らないブラジル人から隣に居たというだけで「おめでとう!」のハグをし合い、スパークリングワインをご馳走になってしまった。
 スーパーのワインコーナーには、もともとフランス、ポルトガル、イタリアの輸入ワインはしっかりと取り揃えてあったが、メルコスール(アルゼンチン、ブラジル、パラグアイ、ウルグアイの4カ国で合意された自由な流通を目指す南米南部共同市場)のもと、アルゼンチンワイン、さらに自国のブラジルワインが加わり、ワインコーナーは広がるばかり。毎年5月にはサンパウロでワイン・エキスポが開かれたり、生産地でのワイン・フェスティバルなども盛んだ。ワイナリーにはティスティング・コーナーが常設され、ワインツアーも開催されて、ワインの需要は拡大している。ちなみに世界ワイン協会によると、ブラジルのワイン生産量は世界で15位。消費量は日本人とほとんど変わらず1人年間約2リットルほど。
 先日、友人がワインパーティを開いた。魚料理に肉料理、自分でカラメルまで作って焼いたという自家製プリンのデザートまで付き、それぞれの料理に合わせ、アルゼンチン、オーストラリア、ブラジルの手頃でおいしいワインが出された。こんな時にブラジルにいて良かったと思うのである。
(おおくぼじゅんこ・サンパウロ在住)■

月刊 酒文化2010年02月号掲載