日本祭りで日本酒試飲会

 南米で最大と言われるブラジル日系社会の行事として、毎年7月中旬にサンパウロ市内で開催される日本祭りが今年で13回目を迎えた。47都道府県人会がある当地では、この日本祭りに各県の郷土料理が販売されるほか、郷土芸能なども披露される。
 その日本祭りで今回初めてとも言える大規模な日本酒の試飲会が実施された。日本から酒問屋を含めた7社の蔵元関係者が、大吟醸酒や純米酒など自慢の地酒を持参し、ブラジル人にも大いに受けていた。
 今回このイベントが実現したのは、日本食品などの輸入販売する日系企業が創立20周年を記念したからだ。同社はサンパウロの東洋街に高級日本酒をはじめとする日本食専門フードコートをオープンさせることになった。
 ブラジルには「東麒麟」という日本移民たちが作った地場の酒造メーカーがある。さらに15年ほど前から白鹿、日本盛、大関などの大手酒造メーカーの日本酒は輸入品として出回っていた。しかし、吟醸酒などの味わい深い日本酒には滅多にお目にかかれなかった。各県人会の節目の年に母県から県知事などが来た際に「お土産」として持参する地酒を「謹んで頂く」ぐらいしか機会がなかった。
 今回の高級日本酒をブラジルで販売するためには、輸入業者が用いている「冷蔵用コンテナ」の使用が絶対条件であった。なぜならブラジルに持ち込まれる酒は、赤道を通る際に高温によって品質が劣化し、日本酒が持つ本来の味が損なわれることも、しばしばあったからだ。
 また、試飲会出展のために日本から来伯した蔵元たちが口を揃えたのは、日本国内では当然のことながら、「生で飲んでほしい」ということだった。
 ブラジルの焼酎である「火酒(ピンガ)」のアルコール度数が50度前後と高いことから、レモンなどと混ぜてカクテル(カイピリニーニャ)にして飲むことがこの国の文化として定着している。それを真似て、日本酒をベースとして作った「サケピリーニャ」が日本レストランなどで出され、女性などに好まれる傾向にある。そうした中「本来の日本酒を味わってほしい」という蔵元の思いは当然であろう。
 毎年約20万人近くが訪れる日本祭りは、入場料も必要なため、ある程度の収入がある中流層のブラジル人や日系人が多く、珍しい日本の高級酒が試飲できるとあって、ブースの前は大いに賑わっていた。
 蔵元からは、「ブラジルでも間違いなく受ける」として、「日本は不景気の影響で消費者の動きが少ない。海外で流行った吟醸酒を日本に逆輸入できれば」との意見もあった。また「ブラジルのワイン市場をうまく切り崩し、スーパーなどでワインと同じ棚に自分たちの日本酒を置くことができれば」などという期待感を込める声もあった。実際に試飲したブラジル人からも「香りが良く、フルーティーな味わいがある」と好評で、中には「お米の旨味を感じる」という声すら聞こえた。
 岡永の飯田社長は、「今までいろんな国で試飲会をしましたが、ちょっと声をかけてこれだけの反応があるのは驚きました」とブラジル人の反応のよさに満足した様子だった。
 日本の蔵元たちが丹精込めて作り上げた高級日本酒をブラジルでいかに普及させるかは、蔵元と販売業者の腕の見せどころといったところか。
(おおくぼこうじ:サンパウロ在住)

月刊 酒文化2010年10月号掲載