ビールは早くもW杯モード

 6月に南アフリカで開催されるサッカー・ワールド・カップを前に、「サッカー王国」のブラジル国内でも盛り上りを見せつつある。毎回、この時にはブラジル国内で必ずどこかの大手ビール会社が大会のスポンサーのひとつとなる。今年はブラジル最大のビール・メーカーAMBEV(アンベビ)社系列の人気銘柄「ブラーマ(BRAHMA)」が公式スポンサーとなった。
 すでに売り出されている「ブラーマ」社の缶ビール(350ml)には、W杯を記念したFIFA(国際サッカー連盟)公認のオリジナル・ラベルが印刷されている。また、ロング缶(500ml)には、「カナリア軍団」と言われるブラジル・セレソン(代表)を意味した黄色をメインに「CBF(ブラジル・サッカー連盟)」公認マークも記されている。
 W杯開催の時期には必ずこのような特別記念缶ビールが販売され、日本と韓国でW杯が同時開催された時も日本と韓国の国旗を描いた缶ビールが売り出された。
 ビールのラベルと言えば、ヒルトン・ホテルのオーナーファミリーの令嬢で、世界的モデルとしても有名なパリス・ヒルトンが、そのセクシーさを売り物にしたTVのコマーシャルが話題となった。リオのカーニバルで公式スポンサーとなったビール会社の「スキンカリオール」社がパリス・ヒルトンを招き、大々的にアピールしたのだが、性的描写が差別的であるとして女性人権団体から圧力をかけられ、世界的に話題となってしまった。
 問題のCMは、パリス・ヒルトンが露出度の高い黒いボディコン風のミニワンピースを着て、マンションの部屋で挑発的なポーズで歩き回るのを、近所の男性カメラマンが覗き見し、写真撮影を行うという内容。
 このCMを見た一般消費者、人権団体や広告審議会などは、「性描写を連想させる宣伝で、女性蔑視にあたる」と宣伝を禁止するよう求めた。
 それに対抗して製造元の「スキンカリオール」社では、ラベルデザインに描かれている女性の胸部分だけに「黒塗り」を施し、販売禁止とならないような措置を取ったという。しかし、実際にはスーパーマーケットなどの販売店では「黒塗り」はかえって淫靡さを誘うのか、そのままで販売している。
 海岸でのビキニ姿の女性を起用したビール会社の宣伝が多いブラジルで、こうした宣伝が「女性蔑視」と人権団体から抗議受けるのはとても珍しいことだ。
 「南米の大国」と言われて自尊心が高いブラジル国民、特に女性にとって、「北米」で度々騒動を起こしている「いわくつき」モデルであるパリス・ヒルトンが自国のビール会社のモデルに抜擢されたことに、ある種の不満が爆発した形とも言える。
 その問題のビールの名前は、「DEVASSA BEM LOURA」。直訳すると「すごい金髪女を覗き見しろ」という意味合いになる。「スキンカリオール」社が社運をかけて「黄金色のビール=金髪=パリス・ヒルトン」のイメージを出し過ぎた感も否めない。同業他社の缶ビール(350ml)が約1.2レアル(約60円)前後であるのに比べて、「覗き見ビール」は「約1.4レアル(約70円)と割高となっている。
 なお、気になるお味の方は、名前に反してさっぱりと軽いだけで、コクがない。決して「美味い」とは言えず、個人的には同業他社の割安ビールのほうが味もまろやかでコクがあると感じてしまった。そういえば、この「DEVASSA BEM LOURA」は隠喩で「金髪女性の尻軽女」を意味する部分もあるとか。「軽い」のは、お尻だけでは無かったのであった。
(おおくぼじゅんこ:サンパウロ在住)■

月刊 酒文化2010年05月号掲載