ブラジルのつまみ

 ブラジルは貧富の差が激しく、上流階級層と中流、下層階級とでは生活のレベルが大きく違う。上流階級ではワインやウイスキー、ビールなど様々な酒が飲まれるが、下の階層へ行けば行くほど安価な火酒やビールが精一杯という感じだ。
 酒のつまみも違う。上流階級では、ブルーチーズやカマンベールなど輸入品を含めたさまざまなチーズ、生ハム、カルパッチョ、キャビアのカナッペやオリーブの実などヨーロッパスタイルの前菜が上品に並ぶ。
 一方、庶民が行くバール(大衆食堂)ではもっと大胆で量もどっさり。定番は「フライド・ポテト」。揚げたてに塩をかけ、マヨネーズやケチャップで食べる。じゃが芋の代わりにマンジョッカ芋(キャッサバ芋)を揚げたものやポレンタ(とうもろこしの粉を固めて揚げたもの)もある。「シュラスコ」(焼肉を意味する)は、バールのつまみとして頼んだ場合、ほとんどが牛肉を一口大に切り、玉ねぎスライスと炒めた物が出てくる。主に塩で味付けされ、頼めばパンの輪切りなども付いてくる。その他に「カラブレーザ」というブラジル製ソーセージ(=リングイッサ)を輪切りにし、玉ねぎスライスと炒めたのも人気だ。日本のソーセージとは違って、塩気が強く、肉々しくてジューシーだ。
 「フランゴ・パッサリーニョ」と呼ばれる鶏のから揚げもある。日本のから揚げに比べて硬く、しかも骨付き。だが、ニンニクの風味と硬さが、慣れてくるとたまらなくなる
 その他にブラジルにば、「パステル」というちょっと大きめの餃子を揚げたような物がある。中身は牛挽き肉とみじん切りの玉ねぎを炒めた物やとろけるチーズ、さらにトマトとチーズとハムなど様々。代表的なブラジルのレストラン「シュラスカリア」では、前菜にこのパステルのミニバージョンがよく出される。一緒に出されるのは「ポン・デ・ケージョ」というチーズパン。これもブラジルの代表的な食べ物だ。その他に「ブラジルのコロッケ」と勝手に呼んでいる「コシーニャ」がある。じゃが芋にクリームチーズをあえ、円錐形にかたどり、揚げたもので、なかに味付けしたチキンが入っている。普段はおやつや軽食として、大人から子供まで大人気だ。
 コシーニャと同じような揚げ物で、円錐形にはせず、丸くした物は「ボリーニャ」と呼ぶ。「小さいボール」という意味だが、ちょうどたこ焼きぐらいの大きさで、中身はじゃが芋に鱈のほぐし身を混ぜ込んだ物などがある。
 その他に日本人に人気なのが「カスキーニャ・デ・シリ」。カニ・グラタン風のもので、入れ物が貝殻やカニの甲羅が使われる。カニのほぐし身を入れ、上からチーズをふりかけてオーブンで焼く。
 さまざまなつまみがある一方で、何も食べずにただひたすら飲んでいる人も結構見かける。逆に飲んでいるのか食べているのか分からない程、食べながら飲んでいる人もいる。飲み方も、つまみ方も、パターンや決まりなどなく、好き勝手にするというのが、「ブラジル流」なのかも知れない。
(おおくぼじゅんこ・サンパウロ在住)

月刊 酒文化2010年06月号掲載