熱帯原産のワイン、タイの『モンスーン』を試す

 東南アジアでワインと言うとピンとこない読者も多いだろう。あるいは、一回試したが美味しくなかったという感想を持つ読者もいるかもしれない。ところが、最近のタイ産のワインはレベルが上がってきている。
 東南アジア産のワインというと、日本ではベトナムのダラット産のワインがある程度は知られているかもしれない。ベトナム料理レストランに行くと、おいてあることが比較的多い。
 しかし、今回注目したいのはタイ産のワインである。タイのお酒と言えば、『シンハー』や『チャーン』といった日本でもお馴染みのビールを思い浮かべるだろう。最近は駅前や住宅街のごく普通のスーパーにもタイのビールは日本や欧州のビールと一緒においてあることも少なくない。筆者の日本の自宅がある神奈川県では、地元スーパーチェーンであるフジスーパーでも取り扱っているのを見たことがある。
 さて、タイのワインの話に戻そう。タイには「サイアム・ワイナリー」というワイナリーがあり、タイのビジネス・タイクーンであるチャレーン・ユーウィッタヤー氏が設立した。チャレーン氏はエナジードリンクのレッドブルの元となる飲料を開発した一族の出身であり、創業者のチャリアオ・ユーウィッタヤー氏の長男だ。ちなみに、ビジネス誌フォーブスは、毎年恒例となっている「タイの富豪50人」特集の2016版において、チャレーン氏は97億ドルの資産を保有し、第9番目の富豪と報じている。
 このワイナリーはタイの避暑地で有名なフアヒンにある。フアヒンにはタイ王室の離宮もあり、日本で言えば軽井沢のようなところと言えるだろう。サイアム・ワイナリーでつくられるワインは『モンスーンバレー』という銘柄だ。ワインの製造を担当するのはキャスリン・パフというドイツ人女性とチャノンというタイ人男性だ。
 『モンスーンバレー』を気軽の楽しめるレストランとしては、バンコク中心部にあるホリデイ・イン・バンコクの1階にある「チャーム・タイ」というレストランをオススメしたい。筆者が5年ほど前、このホテルに宿泊した際に「チャーム・タイ」で食事をする機会があった。ものは試し、と思って飲んだのがこの『モンスーンバレー』の白だ。タイ料理にあうようにつくられたと言われるだけあって、辛いタイ料理とぴったりであり、ワインが苦手という人でも、1杯、2杯と飲めてしまう口当たりの良さだ。
 もっと軽めのお酒がよいという人には、同じくサイアム・ワイナリーが手がける『スパイ・ワイン・クーラー(Spy Wine Cooler)』というワインカクテルがある。こちらのお酒は、バンコクのバーやレストランで飲むことができるほか、コンビニやスーパーで比較的簡単に入できる。
 サイアム・ワイナリーは公式ホームページによると、ワイナリーにレストランが併設されているほか、収穫祭やワイナリー・ツアーなど各種のイベントを実施している。筆者もいつか訪問してみたいと考えている。
 タイにはサイアム・ワイナリー以外にもいくつかのワイナリーがあり、『サワディー』など数種類の銘柄がある。
 日本にも輸入業者があり、Googleなどで「タイワイン 通販」と検索すると、『モンスーンバレー』ほか、いくつかのタイワインを扱っている業者のサイトがヒットする。現地で購入するよりはやや高くなるが、それでも1000円代からと日本でも手ごろな価格で楽しむことができるようだ。
 意外な感じがするタイのワイン。是非、読者の皆さんにもタイ料理を楽しみながら楽しんでいただきたいものである。
(かわばたたかし:シンガポール在住)
2016年秋号掲載

月刊 酒文化2016年08月号掲載