ビールのつまみにワニはいかが?

 日本の山々が色づくころ、その裏側にあたる南アフリカでは初夏を迎えています。ジワッと汗ばむ日本の夏には爽快なビールが、カラッとした南アフリカの夏にはコクのあるビールが似合うというのが私見ですが……。先日、地元の調査会社が「人気のビール銘柄トップ10」を発表しました。
 堂々の第1位は「カーリング黒ラベル」。フルボディでアルコール度数5.5%とやや強め。第2位は「キャッスルラガー」。南アフリカ生まれのビールで、ドライでややにがみがあります。第3位は「ハンサ」。チェコから輸入したSaazホップを使用しており伝統的なピルスナーの味が楽しめます。
 ところで、南アフリカでビールのつまみと言えば「ビルトン」。肉を味付けして乾燥させたジャーキーで、冷蔵庫がない時代に、肉を保存する目的で始められたそうです。 
 ビルトン(Biltong)の名前の由来はオランダ語で「bil=お尻(もも)」と「tong=皮をはぐ」、と聞くとなんだか痛々しい感じですが、一度食べるとやみつきに。塩気やスパイスがきいていて、ビールがすすみます。
 ビルトンには牛肉や鶏肉だけでなく、様々な種類があります。珍しいのは「ゲームミート(猟獣肉)」を使ったもの。ダチョウ、インパラ、スプリングボック、そしてなかにはワニの肉まで。街のビルトン専門店に行き、天井から吊り下げられた肉を指差して、グラム数を言えばその場でスライスしてくれます。
 しかし、知人が言うにはビルトンはホームメードが一番! 作り方は簡単で、肉に香辛料をかけて風通しの良いところで乾燥させるだけ。一度は作ってみるべきだと言われ、「うちには肉を干すスペースもないし、乾燥具合も分からないし」と尻込していると、「じゃあ、あれを使えば大丈夫」と教えられたのが「家庭用ビルトンメーカー」。
 たった2日でビルトンが作れてしまうという優れもので、勧められるまま約4000円で購入しました。後日、届いたダンボールを開けると、でてきたのは薄茶色の木箱。たて30cm、横20cmの箱の中には、肉を吊るすフックと肉を乾燥させるための電球がひとつ備え付けられています。おもちゃのような箱を眺めながら、「本当にこれで大丈夫なの」と不安になりながらも、「モノは試し」と早速、挑戦することに。
 スーパーで買った牛肉に酢、塩、砂糖、コリアンダー、こしょうをすりこみ、ボウルに入れて一晩冷蔵庫で寝かせます。翌朝、水とお酢につけ表面の塩を取り除いたら下準備は完了。肉をビルトンメーカーに干し、電球をつけたらあとは待つだけです。
 翌日、箱を開けると……。赤みがかった肉は茶褐色に乾燥し、表面のスパイスの粒がきれいに浮き出ています。消化しやすいように軟らかく、健康に気を遣って塩分控えめにと、自分の好みにあったビルトンの完成です! ひと口食べると、口の中にフレッシュな肉の風味と、ピリッときいたスパイスの香りが広がります。気づけば手は自然と冷蔵庫のビールに伸びていました。
(たかざきさわか:ヨハネスブルグ在住)

月刊 酒文化2008年11月号掲載