「ピノタージュ」が生むルビー色のワイン

 日本のワイン市場に占める南アフリカ産の割合は約一%と、まだ珍しい存在です。日本で手に入る銘柄は限られていますが、南アフリカ国内には大小六〇〇前後のワイナリーがあるといわれ、生産量でも世界トップ一〇に入る規模です。
 南アフリカワインの代表的な産地は、地中海性気候に属するケープタウンウンに近い沿岸地方。沿岸部には大西洋とインド洋が交わるアフリカ大陸最南端のアガラス岬があり、海から吹き込む冷涼な風はブドウ作りに適した環境をもたらします。
 南アフリカで初めてワインが造られたのは約三五〇年前の一六五九年。オランダ東インド会社は一六五二年、香辛料取引のためインドを目指す船員達に新鮮な食料を供給するため、ケープタウンに停留地を設けました。その初代総督であるヤン・ファン・リーベックが一六五五年にぶどうの苗木を植えたのがワイン造りの始まりと言われています。
 その後、宗教上の理由でフランスから追われたユグノー(新教徒)がワインの生産技術を持ち込んだことにより、一六八〇〜一六九〇年の間に技術向上が図られました。品種は赤ではカベルネ、メルロー、ピノタージュ、シラーズ、白ではシェニン、シャルドネ、ソーヴィニョン・ブランなどが多く作られています。
 なかでもピノタージュは南アフリカ固有の品種です。ピノタージュは、ケープに生まれ欧州で研究を重ねたアブラハム・ペロルド教授によって、一九二五年に開発されました。ピノ・ノワールとサンソーをかけ合わせたもので、南アフリカでサンソーはエルミタージュと呼ばれていることから、「ピノタージュ」の名前がつけられました。
 ピノタージュで造られたワインは鮮やかな濃いルビー色で、若いうちはスモーキーで渋みや酸味が強く、熟成するにつれ心地よいベリー、バナナなどのフルーティーな香りやチョコレートの風味がするのが特徴とされます。
 南アフリカ・ピノタージュ協会によると、ミディアムボディのピノタージュには新鮮な魚料理、豆スープ、寿司や刺身が、フルボディのタイプにはベニソン(鹿肉)やスペアリブのバーベキューソース和えなどが相性が良いそうです。
 ピノタージュなど南アフリカのワインを一度に楽しめるのが、ケープタウンから車で一時間ほどの距離にある南アフリカ最大のステレンボッシュ・ワイン街道です。ここには一三〇以上のワイナリーがあり、山の斜面に広がるワイン畑の麓に、次々とワイナリーが現れます。外壁が数キロ続く巨大なワイナリーから、家族経営の小さなもの、モダンな佇まいのおしゃれなワイナリーまで、ユニークな外観を楽しめます。
 ワイン造りも今ではヨーロッパ系の白人だけでなく、黒人、女性などユニークな造り手が登場し話題を集めています。二〇一〇年のワールドカップを前に、南アフリカのワインは世界中から注目を浴びています。
(たかざきさわか・ヨハネスブルグ

月刊 酒文化2008年12月号掲載