象も愛するマルラの実

 南アフリカの食生活はとても豊かです。世界の生産量のじつに8割を占めるのは、ダチョウの肉。街のステーキ屋でも普通に食べられます。表面はぱさぱさした感じがあるもののあっさりとした味わいで、濃くのある赤ワインと合わせるのがお勧めです。ダチョウの肉はタンパク質や鉄分が豊富に含まれる一方で、低脂肪、低カロリー、低コレステロールとメタボ対策にはもってこいの食材です。
 飲み物では日本でも健康茶として注目を集めているルイボス茶があります。南アフリカ西部の一帯だけに自生する貴重なハーブティーです。喫茶店でお茶を注文すると「ルイボス茶ですか? それとも紅茶ですか?」と聞き返されます。
 ルイボス茶は地元では「赤い藪の奇跡」とも呼ばれ、血糖値抑制、不老長寿、美肌などの効能があるとされています。夏には麦茶がわりに飲むのが日本流の楽しみ方です。砂糖やミルクを入れる地元流の飲み方に慣れるには少し時間がかかります。
 お土産品として人気が高いのは「アマルラクリーム」。南アフリカ原産の木の実マルラを使ったリキュールです。89年の生産以来、世界160カ国に輸出されています。マルラの木は南半球の夏の時期1〜3月にかけて、梅の実と同じような大きさの黄色い実をならします。
 マルラの実は固い皮で包まれていて、繊維質の果肉に吸いつくと甘酸っぱい果汁が口に流れます。季節になると村の住民たちは家のそばで拾った実を、アマルラ工場に売りにいきます。工場では実の芯を取りのぞき果汁を搾ります。
 その後、ワインのように果汁を発酵させ、2回蒸溜したものを樫樽で2年間熟成させます。そしてチョコレート、バニラ、コーヒー、シトラス、スパイスでつくった新鮮なクリームとブレンドします。カルーア・ミルクに似た味わいで、アルコール度数は17%です。
 マルラの実にはオレンジの4倍のビタミンCが含まれ、皮には27種類以上の香りがあると言われています。このため、リキュールやジャムに加工されるだけでなく、アロマセラピーやエッセンシャルオイル、化粧品の原料としても使われています。
 野生の象もマルラの実を喜んで食べることから、マルラの木は「エレファント・ツリー」の愛称でも親しまれています。象は木からそのまま実を食べますが、猿は木から落ちた実を拾って食べるため発酵した実で酔っぱらうこともあるそうです。
 また、マルラの木は豊穣のシンボルとされ、「結婚の木」と呼ばれることもあります。結婚式の前にマルラの木の下に集まり身を清めるための儀式を行います。マルラの木は大きいものでは9メートルにも育ち、地元の村では神聖な木として大切にされています。
(たかさきさわか:ヨハネスブルグ在住)■

月刊 酒文化2009年05月号掲載