感動与えるジャパニーズ・ウイスキー

 一般消費者向けでは世界最大となる「南アフリカ・ウイスキー・ライブ・フェスティバル」が11月中旬に開催されました。ケープタウンとヨハネスブルクの2都市で開催され、各3日間の会期中に約150万人が訪れます。
 来場者には白人の中年男性や夫婦の姿が目に付きますが、最近は女性や若者、それに「黒人」の参加が増えているとのこと。
 白人と黒人の所得格差が大きいこの国では、ウイスキーはもともと「リッチな白人の飲み物」とされてきました。歴史を振り返ると、1962年8月15日まで黒人はアパルトヘイト政策の一環として、「ヨーロッパの酒」を買うことを禁じられていました。職業も制限され賃金も抑えられており、経済的にも苦しい生活を強いられました。
 その後、94年の民主化を機に、政府は黒人の経済への参加を促進する政策を進めました。その結果、大企業のトップや幹部に登用される黒人が増え、急速に購買力をつけました。そのような黒人は、「ブラック・ダイヤモンド」とよばれ、消費をけん引する重要なターゲットとして注目をあびています。
 各社の宣伝効果もあり、そのような黒人にとってウイスキーはお洒落な飲み物として、家や車と並ぶステータスシンボルになっています。銘柄ではJ&B、Bell's、ジャック・ダニエルが人気です。
 さて、会場の外に用意されたセミナールームでは、ウイスキーの知識を深めたい人が別途料金を払って講演を聞きます。
 12のセミナーのうち3つは日本を題材にしたもので、日本のウイスキーづくりの歴史などが紹介されました。このうち、日本の主要なウイスキーを取りあげた「ライジング・サン」というセミナーに参加しました。講師はウイスキー評論家のデーヴ・ブルーム氏。100名以上を収容する会場は満員でしたが、参加者の約3分の2は「日本のウイスキーは今回が初めて」。
 座席のテイスティング・シートには6つのジャパニーズ・ウイスキーがのせられ、製造法などの説明が終わるとさっそく試飲が始まりました。4つめの順番が来たときです。会場から「おぉー」と歓声があがりました。それは、山崎蒸溜所梅酒樽後熟シングルモルトウイスキー。隣に座っていたおじさんも「これはすごい! こんなに個性の強くて飲み応えのあるウイスキーはめったにない」と大絶賛。デーヴ氏が「日本のウイスキーの感想は?」と会場に尋ねると、「グレート!」の声に続きあちこちで賞賛の声があがりました。
 デーヴ氏によると、ジャパニーズ・ウイスキーに関するセミナーは、すべてのチケットが売り切れてしまうほどの人気。ジャパニーズ・ウイスキーは「珍しいモノ」として人気を集めているようです。また、これまで知らなかった人も、ひとたびその味を覚えると熱烈なファンになるとか。
 南アフリカで手に入るジャパニーズ・ウイスキーはまだ数えるほどしかありませんが、実力あるジャパニーズ・ウイスキーがアフリカに広がる日もそう遠くないかもしれません。
(たかざきさわか:ヨハネスブルグ在住)

月刊 酒文化2009年01月号掲載