凍てつく冬の夜は隠れ家バーで

 まだ11月だというのに大雪になったり、体感温度が摂氏マイナス15度という記録的な寒さのニューヨーク。そんなわけでフードコートに行けばラーメン屋が大行列。寒くなれば温かいものを食べたいというのは、民族に関係なく皆一緒。酒だったら熱燗といきたいところだが、こちらでは酒を温めて飲むという風習がない。その代わり、夏に盛況となったルーフトップバーとはうってかわり、暖炉が似合いそうな隠れ家バーが人気だったりする。
 今回お勧めするのは、市庁舎やウォールストリートに近いビークマンホテル地下にオープンしたノスタルジック感漂うバー。その名も「アレイキャット・アマチュアシアター」。今年の春にオープンしたときは、各ニュースの紙面で一斉に取り上げられた、まさに今が旬のバーである。
 なんでも、レストランやバーの有名オーナーで、自身もデザインするというパリ出身のセルジュ・ベッカー氏が手掛けたことでも話題のようだ。「チューダースタイル風シアターハウス」という内装にもかかわらず、お酒のメニューには、日本のテイストがふんだんに取り入れられている。これもベッカー氏のアイデアとか。
 ニューヨークには日本のお酒を提供する焼酎バーや居酒屋はたくさんあるが、内装が「日本的」でないものの、バーメニューには日本に感化されたお酒がずらり、というのは珍しい。
 バーは、ホテルの正面玄関とは別の裏口から下に降りるのでわかりづらい。まさに「隠れ家」バーである。もっとも裏口には、シンボルとなるブルーキャットのネオンサインだけがぽつんと輝いているので迷うこともない。入口のロープをはったところに係員はいるが、特に怪しく(?)なければ、IDチェックもなくそのまま通してくれる。
 下に降りる階段があるが、暗すぎて手すりにつかまらなければ踏み外しそうだ。扉を開けると、広々としたダークな空間の中に、格調高いカウチやベルベットのソファーがあちこちに置かれているのがわかる。まるで洋館にご招待を受けたようで、すっかりうれしくなった。
 さて、お酒のメニューは――。凄い。日本に触発されたと聞いていたがここまで。カクテルの名前は「東京ロゼ」「バトルロワイアル」、焼酎は「タカハシシュゾウ キンジョウ シロライス(高橋酒造謹醸白米)」「テンシノユウワク イモ(天使の誘惑芋)」、ウイスキーは「ニッカ タケツル」、「マルス シンシュウ イワイ」「クラヨシ ピュアモルト」「サントリー トキ」。おつまみも「ヤキトリ」「ニクダンゴ」「ツナ タタキ」と日本尽くしである。
 さて、1杯18ドルとお高いがここはひとつ、カクテルを注文してみよう。「トンコツオールドファッションド」という名前が気になった。風味を出すためポーク・ファット・ウォッシュドというリキュールと豚油分を混ぜ合わせた後、脂分を取り除くのだという。他にラム酒にわさび、プラム、レモンのテイストをミックス。ロックグラスに大きな氷を入れて出てきたその味は―。カクテルの甘さがない。まるでウイスキー。苦みが絡みつきなんとなくこの一杯で、酔いが廻りそうになる。二杯目の「いいちこ清凛麦焼酎」は9ドル。体が中から熱くなり冷たい空気も気にならない。ほろ酔い気分で電車に乗って無事に家に帰ることができた。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2019年冬号掲載

月刊 酒文化2018年12月号掲載