話題のニューヨーク新名所「ハドソン・ヤード」で飲む一杯

 ミッドタウン西の外れ、ハドソン・リバーに近い十番街から一一番街の間の三四丁目一画。ここに住居、オフィス、商業店舗を兼ね備えた高層ビル群、さらには学校、公園、文化施設からなる巨大複合施設の建設計画が数年前に発表された。マンハッタンにおいて民間企業が手掛ける過去最大規模の開発だという。以来、日系企業も含むディベロッパーの参画のもとに急ピッチで建設が進められ、今年の三月一五日、新名所「ハドソン・ヤード」が完成。オープンセレモニーが開催されたことは、日本のニュースでも話題となった。目を引くのは、地下鉄「三四丁目 ハドソン・ヤード」駅と高層ビルに囲まれた巨大なアートオブジェ「ザ・ベッセル」。二五〇〇の階段が蜂の巣のように張めぐらされたオブジェを上がると、ハドソン・ヤードの景色が楽しめる。もっとも高い展望台は「ザ・エッジ」と呼ばれ、これは来年ハドソンヤード・ビルの九九階と一〇〇階に完成するそうだ。
 さて、この「ハドソン・ヤード」は私の自宅から徒歩数分の場所。ひと昔前までは荒廃し「ヘルズキッチン」などと呼ばれてきたこの地区も、高架鉄道を利用した遊歩道「ハイライン」が延び、目まぐるしいまでに発展してきた。人通りの少なかった一〇、一一番街も「ハイライン」ができ、さらにはこの「ハドソン・ヤード」が完成してからは、毎日おびただしいまでの人、車が行き交う場所となった。
 日曜の夕刻、散歩がてら施設の一つ、ショッピングモール「ザ・ショップス」に繰り出すと、家族連れのニューヨーカーや観光客が溢れている。モールの目玉はマンハッタンに初進出した老舗デパート「ニーマン・マーカス」だ。「サックス・フィフス・アベニュー」と競っているだけあり、品揃えは高級品が多い。そして同社の社長でもあったマーカスの名を冠した「スタンリー・バー」が併設されている。試しに入ってみるとランチやディナーメニューのほか、バーカウンターがある。けして広いとは言えないが、随所にスタンリーの過ごした古き良き時代の写真が飾られるなど、ノスタルジックな雰囲気も演出されている。ドリンクメニューには、カクテル、シグナチャー・ドリンク、ワイン、ニューヨークの地ビールなども取り揃えられている。「ハドソン・ギブソン」、「ミスター・スタンリー」、「ザ・グッドバイ」、「ミセス・マラプロップ」などのオリジナルの名前が並ぶ。在りし日のマーカス氏に因んだ名前が付けられているものも多い。
 試しにカリフォルニアのスパークリングワインを注文(グラスで一五ドル)。ナッツやオリープと提供される。通常は午後八時まで営業だが、日曜日は午後六時で終了してしまう。赤い顔でショップを歩くのはちょっと気恥ずかしい。飲み足りない場合は、モール内の「ミロス・ワインバー」、「ワイルド・インク」、「クィーンズ・ヤード」へあたりへどうぞ。カウンターバーがあり、夜遅くまで営業中。月、火、水曜日の夜は比較的空いている。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2019年特別号上巻掲載

月刊 酒文化2019年06月号掲載