本場で味わうキュラソー酒

 九月初旬にまたまたふらっとカリブの島に行ってしまった。行き先はキュラソー。ニューヨークからジェットブルーの直行便で四、五時間のフライトだ。南米のベネズエラ寄りのため、この時期に多いハリケーンの影響は受けにくい。実際、最強のハリケーン「ドリアン」の来襲と重なったが、キュラソーはまったく影響を受けなかった。
 オランダの自治領にはボネール、アルーバなど複数の島があるが、キュラソーは最も大きい。カリブ特有のカラフルな街並みはキュラソーも例外ではなく、特に首都ウィレムスタットの美しい景観からユネスコの世界遺産にも認定されている。
 そしてキュラソーのもうひとつの名物と言えばリキュールである。オレンジの果皮を乾燥させアルコールに漬けた、カクテル素材として知られる「キュラソー」。本場キュラソーでつくられるこの酒は、ライムに似たララハという果実を用いる。別名「キュラソーのゴールデンオレンジ」とも言われる。
 首都の北東に「シニア&カンパニー」が運営する蒸溜所があり、内部見学ツアーが催されている。海岸沿いにあった宿泊先からおよそ三〇分歩き、道路脇のイエローカラーの蒸溜所へたどり着いた。以前ご紹介したプエルトリコのバカルディ社より小規模で、会社というよりワイン栽培によく見られる家族経営の「邸宅」といった趣だ。
 受付でカクテル一杯付きのツアーに申し込む。まとまってスタートすると思いきや、そばにいた係員が私だけを誘導する。後でわかったのだが、ほとんどはクルーズから来る観光客で、バスの時間に合わせまとまって行動している。私のように徒歩でやってくる者は例外なのだろう。
 蒸溜所前に植えられたララハのサンプル樹木の説明からツアーは始まる。島の東側には実際四五本のララハの小高い木がある。ハシゴで上って一本につき一五〇から二〇〇の実を手作業で採取するのだ。収穫は年に二回。
 ララハの起源は、スペイン領だった一六世紀にバレンシアオレンジの種が持ち込まれた記録から始まるが、当時は風土の違いから甘みを十分引き出せなかったようだ。年月を経て野生化した果実をアルコールにつけ、フラグランスなアロマを引き出す。さらにエキゾチックなスパイスを混ぜるなどいろいろな工夫を重ねてできあがったのが本場キュラソーだ。エドガー・シニアは家の秘伝のレシピを元に一八九六年、この蒸溜所をスタートさせた。当時の歴史を振り返るパネル、蒸溜プロセスを解説するイラスト、工程紹介用ビデオ、コッパースチルと呼ばれる銅製蒸溜器具や麻袋、樽、ガラスのボトル、計量器具など展示の一つ一つが興味深い。
 試飲の液体そのものは苦みが強いが、マンゴ、パイナップル、ライムといったフルーツに、ブルー、レッド、グリーンのキュラソー酒をミックスしたシグナチャーカクテルは、アロマの効いた爽やかな甘さだ。中庭のバーカウンターには美しい色とりどりのボトルが、陳列されており、どの色も欲しくなる。販売コーナーには小さいボトルの詰め合わせセットもあり、カクテル好きにはうってつけのお土産になりそうだ。
(あおきたかこ:ニューヨーク在住)
2019年特別号下掲載

月刊 酒文化2020年06月号掲載