バスティーユ・デイで飲むプロバンスのワイン

 毎年7月14日はパリ祭。1789年フランス革命の発端となるバスティーユ監獄襲撃により、新たなフランス史の幕開けとなった記念すべき日だ。フランスでは盛大なイベントが催されていると想像するが、ここニューヨークでも、マンハッタン東のフランス人居住エリアで、一大イベントが開かれる。赤、白、青。フランス国旗の色を取り入れた風船が、イベント会場を埋め尽くし、あふれんばかりの人々が60丁目を行き来する。
 この一角にアリアンスフランセーズというフランスの文化会館・語学学校がある。ここではジャズパーティやワインのテイスティングイベントがあり、オンラインで前売り券を販売していた。どれにしようか迷ったが、「サマー・イン・プロバンステイスティング」に申し込んでみた(30ドル)。
 会場は広くないため、入れ替え制になっている。黄色のリストバンドとチケットを受け取り20分ほど列に並んで中の会場へ。
 チケットには3種類のワインと、ハーブのリキュール「リカール」か「クローネンブルグ」というアルザス地方のビールのどちらかを選ぶようになっている。「リカール」のほうはフランスでも定番のカクテルにしてサービスされるらしい。こちらにしてみようと、初「リカール」体験。うーん、苦味が結構強烈だ。ハーブなど香草を取り入れた独特の味わい。日本人の酒通でも好き嫌いが分かれるだろう。
 続いて、たちどころ酔っぱらってしまいそうな高揚する気分を抑えつつ、プロバンス産のワインにチャレンジ。シャトーデ・ラ・クラピエールのロゼワインは、まろやかな舌触りにかすかなフルーティの香りとスパイスが混ざり合う。リーズナブルでコストパフォーマンスの高さで評価されている。次のシャトー・デスクランの「ロックエンジェル」も少し白みがかったボトルに天使の翼が描かれたラベルも美しい。目視でブドウを3回に分け選別し、酸化を防ぐため入念な温度調節をしながら茎を取り除きプレスすると説明されていた。フルーティなアロマにハーブの香りをミックスした辛口ロゼだ。
 フランス産ワインのおつまみと言えば、シャルキュトリだろう。この日は「3匹の子豚のシャルキュトリ」というニューヨークのグリニッチビレッジにある店のハム、サラミ、ソーセージ、パテなどがパンやオリーブとサーブされた。固めのフランスパンに豚肉のペーストはワインのテイストにマッチし、知らず知らずに食が進む。だが多くの来場者は飲むほう優先のようで、おつまみプレートをお替りする人は少ないようだった。
 さて最後のワインは、シャトー・ラ・ゴルドンの「チャペルゴルドン」。琥珀色のロゼがボトルの中で光り輝いている。プロバンス地方のワインボトルはどれも、すぐに飲まずにしばらく飾っておきたいような気品が感じられる。こちらは地中海に面し、太陽の恵みをうけたブドウ畑のワインとあってか、よりフルーティな香りと滑らかな舌触りが喉の奥に染み渡った。
 その後、外のベンダーで販売しているマカロンがいつもよりおいしく感じられたのは、ワインのミネラル感のせいだろうか。シャルキュトリもよいが、プロバンスのワインとマカロンというスイーツとの組合せも悪くないと思う。
 今度は本場のプロバンス地方に旅行してシャトーに宿泊、じっくりワインを味わってみたいものだがいつ実現するのやら。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2019年秋号掲載

月刊 酒文化2020年06月号掲載