日曜日の午後はクイーンズのタップルームで

 ニューヨークのブリュワリーと言えば「ブルックリンブリュワリー」が有名だが、ブルックリン北に位置するクイーンズにもまたオリジナリティあふれるブリュワリーが多い。テイストの違いもさることながら、タップルームもさまざまで、独特の雰囲気を楽しむことができる。ある日曜日の昼下がりにぶらりと2つのブリュワリーに出かけてみた。
 東西を走る地下鉄のL線は、マンハッタンを出るとロングアイランドのブルックリンに入っていくが、さらに奥へ行くとクイーンズのリッジウッド地区にたどり着く。下車はハルセイ駅。廻りはお店もほとんどなく、ローカルご用達のコインランドリーや床屋がぽつんとあるくらいの閑散とした場所である。少し歩くと、壁面にグラフティーアートが施されたお洒落な一角が目にはいる。ここが、「クイーンズ ブリュワリー」。倉庫を改造した店内のタップルームは、広々としているうえ天井も高い。ほっこりとした温もりを感じさせる木製のスツールに長いバーカウンター。その長さはゆうに10メートルはあり、テーブル付きのベンチもゆったりだ。日曜日とあってバンド演奏もあったが、中で飲んでいる人は10数人程度。観光客が押し寄せるわけでもなく、地元ご用達のタップルームといった風情だ。
 人気のIPAをと注文してみたら、ブルーベリー風味のビールがグラスに注がれた。タップのビールはやはり格別だ。喉にホップの新鮮な苦みと、ほのかなブルーベリーの甘さが広がる。5ドルでこの一杯は得した気分になる。
 ここの定番はドライホップ(ビールづくりの最後にホップを毬花のまま投入すること)の「クイーンズラガー」、マンダリナバーバリア、トパーズを使用した「クイーンズブルーバード」、季節エールとしてブルーベリーを加えた「クイーンズブラウ」の3種。
 ここからさらに3〜4分歩いたところにあるのが「ブリッジ アンド トンネル ブリュワリー」。店の入り口から奥まったところにバーカウンターが見える。中はレトロな雰囲気で、フェイクの暖炉に、カリブの海賊を思い出す樽のテーブル、その上にはシンプルなゲームグッズが置かれている。バーカウンター上にはカラフルな小さいランプ。そしてセラーには番号のついた16のタップが並ぶ。決して広くはないが、自宅でくつろぐようなアットホームな雰囲気を漂わせている。オーナーのリッチ・キャスタグナ氏は不在だったが、週末の当番と思しきフレンドリーなスタッフが、2つのIPAをテイスティングさせてくれた。一つは「ロブスター」。確かにロブスターテイスト(?)にホップの苦みもマッチした独特の味わいが感じられる。もう一つの「ミルクシェイク」は無難に普通のクラフトビールだ。後者を注文し(一杯5ドル)、樽テーブルで飲むことにした。創設は2012年と比較的新しいが、ニューヨークの古き良き時代を偲ばせる店内を眺めながらゆったりと過ごしたい気分になるタップルームである。街を孤立させない橋とトンネルの役割を担う、そんな意味合いを持つこのブリュワリー。マンハッタンの喧騒を抜け出して繰り出してみてはいかがだろうか。
(あおきたかこ:ニューヨーク在住)
2019年夏号掲載

月刊 酒文化2019年06月号掲載