話題のインダストリーシティで「オールディーズ」を訪問

 最近話題のインダストリーシティへ行ってみた。マンハッタンから地下鉄に揺られおよそ30分。駅から外に出た光景は、少し殺風景な感じがしないでもないが、元は工業地帯。まだその名残があるのだろう。近年は再開発ブームに乗り、倉庫や工場を再利用したヒップな「アートと食文化の複合エリア」に生まれ変わりつつある。
 2018年11月この一角にオープンしたジャパンビレッジは大そうな賑わいである。
 「せたが屋ラーメン」、「カフェジャポン」、日系スーパーの「サンライズマート」。清酒の名をかかげた提灯、札に書かれた「彩錦」、「和牛」、「藻塩」の表示。そして日本酒やお好み焼き、お寿司などが味わえるフードコート、バーコーナー。どこもところ狭しと人が座っている。ブルックリン住民の憩いの場といった様相だ。アジア系も多いが不思議と日本語は聞こえてこない。お好み焼きをつくる人、ラーメンをつくる人、皆日本人ではないようだ。日本の食文化を目の当たりにしながらそこに日本人がいない。日本と違う不思議な空気を感じた。
 ジャパンビレッジの横丁にオープンしたばかりの「オールディーズ」は、まだあまり知られていない今が旬のカクテルバーである。バーカウンターに12席ほどのチェアをしつらえた小スペースながら、シックで高級感漂う落ち着いた内装。セラーの奥に並んだボトルや光輝くカクテルグラスが、バー全体にハイソな風情を漂わせ、「大人の時間」を演出している。先に来ていた人たちもまるで友人宅に呼ばれたような雰囲気で、一杯やりながら気軽に語り合っている。
 このバーは、イーストビレッジの有名な「エンジェルズシェア」が初めてイーストビレッジ外でオープンした姉妹店らしい。訪れた日はお見掛けしなかったがオーナーも日系の方で、日本発の酒やおつまみもそろっている。「サントリー・トキハイボール」「柚子カクテル」、日本酒も「萬歳楽」「朝日山」「みむろ杉」「手取川」など。
 隣に来た若者2人は日本酒目当てのようで、迷うことなく好みの盃を選び、一杯やりながらオイスターを注文していた。
 メニューで気になったのは「京都抹茶IPA」。抹茶とビールってどんなテイストなのだろう。抹茶ラテ、抹茶アイス、抹茶チョコがニューヨークでも流行っている昨今、このビールを飲んでみたい!という衝動にかられ、注文してみることに。
 さて、そのテイストは―。抹茶×ホップのダブル苦みはあるものの、コクのあるのど越しで、ぐい飲みではなく、ちびちび飲むには程よい味わいである。メーカーは黄桜。京都の「伏水」仕込みらしいが、見た目にも美しい緑がかった抹茶の色合いも相まって、ここブルックリンにて京風味を堪能した贅沢な気分になる。アツアツの鳥のから揚げは、日本のテイストそのもの。抹茶ソルトを振りかけて頂くコーンの天ぷらもまた一味違った美味しさだ。
 かくして女一人カウンター席にて酒と肴で晩酌。死語かもしれないが「オヤジギャル」という言葉を思い出した。いやもう「ギャル」ではないが。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2020年春号掲載

月刊 酒文化2020年06月号掲載