ナイアガラ&ワイントレイル

 コロナ禍で半年も旅行に出ていない。NY州がいまだに三〇以上の州からの来訪者に対し、一四日間の隔離を義務付けているのだ。サンフランシスコに遊びに行きたくても、戻った後一四日間も外出できないのはつらい。こっそり出かけて見つかると罰金二千ドルだ。
 他州でなければNY州にいるしかない。九月の祝日にレンタカーを予約し、道路地図とにらめっこ。そうだ、米国在住歴二五年でいまだナイアガラの滝を見たことがない。それから、アップステートの有名なフィンガーレイクス。氷河期にできた南北に連なる細長い一一の湖が、指のように見える地形が特徴だ。湖に沿って一〇〇以上のワイナリーが点在しているらしい。場所を定めて半年ぶりに都会を脱出した。
 ナイアガラまでは六、七時間の運転。幸いにも渋滞にはまらず予定時刻に到着した。翌日は朝からナイアガラの滝へ向かう。日本にも有名な滝があるし、ダムのようなものだろうとさほど興味のなかったナイアガラだが、予想と違ってその広大な領域に跨る激しい水流に圧倒された。本来は対岸のカナダに渡って、全景を楽しむのだが、コロナ禍で渡ることは叶わず。観光客はツアー乗船券を買おうと長蛇の列をつくっている。一度並んだものの列はなかなか進まない。二〇分程で離脱した。
 代わりにナイアガラの周辺にもあるワイナリーを訪れてみよう。東の内陸に向けて走るといくつかのワイナリーがある。同じ州でもロングアイランドに比べれば小規模経営のようだ。ワイナリーの一つ「ア・ガスト・オブ・サン」で店員お勧めのシャルドネのワインを一本購入。裏庭に小さい池とブドウ畑が広がっている落ち着いた静かな場所だ。その日はそのまま二時間ほど走ってフィンガーレイクスへ移動。
 翌日は早速ワイントレイルがあるセネカ湖周辺を散策した。この一帯まさにワイナリーの宝庫。葡萄マークのワイナリーの標識が道路沿いのいたるところで目に入る。ワイン通なら一週間は滞在したいところだ。
 家族経営の老舗「ワグナー・ヴィンヤーズ」はセネカ湖を見下ろす丘陵地にあり、ワインだけではなく奥にはブルワリーも併設。ビール一杯ひっかけるのも悪くはないが、残念ながら運転の身、アイスワインを一本購入して次のワイナリーへ移動。
 お隣のカユーガ湖のワイントレイも有名だ。西側のなだらかな傾斜地に佇む「サースティ・オウル」はビストロも併設。ランチにアボガド添えサーモンサンドイッチとレモネードを注文した。湖とブドウ畑を眺めながらの贅沢な味わいに、アルコールがなくてもほろ酔い気分になる。
 ブドウ畑のうちアイスワイン用「カベルネ・ソーヴィニヨン」は手入れも多少手間がかかるらしい。ボトルには収穫時期が二〇一五年の一月五日から一三日と表示されている。真冬の収穫がどんなに厳しいものか想像もつかないが、その凝縮された実でつくられたられたアイスワインは格段に甘い。今回購入した四本のうち二本はアイスワイン。すぐに開けてみたい気もするが、細長い美しいボトルは部屋のインテリアにもなる。しばらくは飾っておこう。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2020年特別号下掲載

月刊 酒文化2020年10月号掲載