久しぶりの外で一杯─ニューヨークのレストラン・バー事情

7月になってもCOVID-19の勢いは止まらない。夏にも関わらずフロリダ、テキサス、南部カリフォルニアなどおよそ半数の州で再び増加しているのだ。ニューヨークは州と市の共同対策が功を奏したのか、感染者数は激減している。今は他州からの流入を警戒し、指定の19の州から入る場合は14日間の自主隔離を義務付ける条例を発布した。
 この状態はまだまだ終わりそうにないが、ニューヨークでも経済再開への準備は進んでいた。すでにオフィスへの出勤は始まり、衣料品を扱う小売店や美容サロンは再オープン、デリバリーとテイクアウトのみの営業から屋外での飲食が認められるようになったレストラン・バーは、7月6日の第3フェーズで屋内飲食を再開する予定だった。
 ところが、他州の感染者の増大と屋外飲食での規定違反が相まって、延期となってしまった。イーストビレッジ辺りの飲食店ではソーシャル・ディスタンシングが確保されておらず、密で騒いでいた様子が写真に撮られ、メディアで露見してしまったのだ。ルールを遵守しない店はリカーライセンスを取り消す、など政府からの脅しもあったと聞く。
 そんなわけで猛暑のなか屋外で飲食することになりそうだ。外の席を設けていなかった飲食店も軒並み、パラソルやテントを用意し外に飲食スペースをつくった。歩道や道路の一部を占拠しているが、店の死活問題だ。とにかく前に進まなくてはならない。
 ハドソンヤードの「リトルスペイン」でも外でサングリアやスペイン産のワインをサーブしている。ベロニア社のロゴの入った黒塗りの樽が、立食用のテーブル代わりに置かれている。本来、公共の場での飲酒は認められていないのだが、今は、皆、広々としたところでグラスを傾けている。
 3月半ばのロックダウンから自宅に籠っていた私も、久しぶりに外食で気分転換なぞをしてみようか、という気分になった。ふと思い出したのが、チェルシー地区のハイラインホテル。空中歩道ハイライン傍の蔦の絡まるお洒落な洋館が目印だ。敷地内の樹木に覆われた「デイジーズ・カクテルガーデン」は日曜日でも13時から22時までオープン。そんなに混んでいなかったので、すぐに庭園を見渡せるカウンターへ通された。印刷メニューはなくQRコードをスマホでチェックして注文する。スタッフはマスクに手袋と衛生面には細心の注意を払っている。
 メニューにはシャンパン、ロゼ、白ワイン、赤ワイン、スパイシーマルガリータ、サングリア、ビールと定番のお酒。暑いのでここはやっぱりよく冷えたカクテル「ネグローニ」にしよう。カンパリ、ベルモット、ジン、シトラスの苦さと甘味が程よくミックスされ、女性の好みそうなまろやかな味わいだ。
 つまみにはサーモンとトマト、クリームチーズのセサミバゲットサンドを注文する。紙の皿にサランラップで包まれ、プラスチックのフォークやナイフでサーブされたのが、ちょっと残念だったが衛生面を考えると仕方がない。スモークサーモンは柔らかく久しぶりの新鮮な魚介類に舌鼓をうった。
 マスクは手放せないがそれでも4ヶ月振りの外食に気分もリフレッシュ。ニューヨークの飲食店を応援する意味でも、1週間に1回は立ち寄ってみるか。
(あおきたかこ ニューヨーク在住)
2020年秋号掲載

月刊 酒文化2020年10月号掲載