ナパのワイナリーは今―山火事、コロナ禍の中で

 コロナ禍が収束しているわけではないが、10月に久しぶりに飛行機に乗った。行先はサンフランシスコ。空港で大学時代の友人夫妻にピックアップしてもらい、友人宅にお邪魔する。そして、コロナに気を付けながら、やっぱりナパのワイナリーに行こうということになった。
 ところでナパバレーを巻き込んだ山火事「グラス・ファイアー」では深刻な被害があった。500件近くあるワイナリーのうち数十軒が被害にあったと聞く。有名なフェアウィンズ・エステート・ワイナリーは甚大な被害にあって今も閉鎖中だ。ウエブサイトで状況を伝えているが、心が痛む。ワイナリーはほとんど家族経営で、家族の思い入れのある場所なのだ。美しい城館で人気のカストロ・ディ・アモローサも被害にあったが、それでも再開し、アウトドアでテイスティングを催している。コロナ禍に火事と二重の被害の中で、家族の絆、コミュニティーの暖かさ、ワイン愛好家達のサポートを心強く思っているだろう。
 今回訪れたワイナリーは火事を免れた南側、蔦の絡まるパテオでワインをいただけるコセンティーノだ。最近はテイスティング代が50〜60ドルのところが多いけれど、ここは30ドルで4種類のワインが楽しめる。ナパでは特に複数の葡萄品種をブレンドしたメリテージ・ワインづくりが盛んなこと、定番のカベルネ・ソーヴィニヨン種、シャルドネ種でもその年の天候、土壌、湿度、空気、収穫の時期で味が異なることなど、初心者にもわかりやすく説明してくれる。
 二本購入したら一人分のテイスティング代が無料ということもあって、1本20ドルのワインを購入。ソーヴィニヨン・ブラン種が80%、セミヨン種20%のブレンドワインだ。赤ワインのほうが体に良いと思うのだが、さわやかな舌触りでつい白を選んでしまう。友人に聞いたら彼らも同じものがよいと意見も一致した。
 夕方はダウンタウンのオックスボウ・パブリックマーケットまで足を延ばした。蒸留酒の専門店や、酒のつまみの店、酒バーなどナパならではのマーケットだ。ただ、山火事、コロナ禍の影響かいつもより買い物客が少ないのかもしれない。あまり混んでいなかった。
 夕食はまたワイナリー方面へ繰り出し、ブリックスという葡萄畑や素敵な庭園を眺めなら食事ができるレストランへ。食事が出てくるまで友人たちと代わる代わる、庭園を散策した。夕闇に包まれる空の下、ライトアップされる中で飲むワインは格別だ。
 南のほうはこのように、皆がマスクしている以外は平常と変わらないが、北側の山火事被害のあったワイナリーに思いをはせる。友人も住んでいることだし、年が明けコロナ禍が落ち着いたらもう一度来よう。その時までに無事に再開していますように。
(あおきたかこ・ニューヨーク在住)
2021年冬号掲載

月刊 酒文化2021年03月号掲載