和食店から飛び出した日本酒

本酒がアメリカでなかなかの人気を集めているという話を耳にしたことがおありかと思う。その人気の度合が目に見えてわかる場所は、人々が目新しいものを食べたり飲んだりしやすいレストランだ。
そうなると当然のごとくニューヨークなどの大都市の話になる。
ここ数年の状況を考えてみると注目すべきは、日本酒が日本食以外のレストランでも出されるようになってきたということ。また「スシ・バー」の流行のおかげで、日本食レストランもどんどんその数を増やしている。そうなると一般の消費者が、高品質な酒にめぐり会える機会も自然に増えてきているというわけだ。
これまでにも小規模だが「日本酒ブーム」のようなものがアメリカで何度か起こった。だがどれも本格的
なブームには至らなかった。その時点ではまだ日本酒は日本食と共にあるべきだと考えられていたのだろう。
だから日本食以外のレストランではドリンクメニューに加えられることもなかった。だがここへきて多くの
ソムリエやシェフたちが日本酒の可能性を探り、実際にその拡大に力を注いでいる。
なぜ今このようなことが起こって日いるのだろうか? まず最大の理由は、アメリカへ日本酒を輸出している諸団体のこれまでの努力がようやく実を結びつつあること。日本酒の啓蒙活動が彼等によって熱心に行われてきたおかげで、ようやくアメリカの人々(特にワインやフードビジネス業界に身を置く人々)も日本酒がどれだけ優れたものであるか認識し始めた。また「スケールメリット」もとれるようになった
―つまり対アメリカの輸出量が増えたからこそ、マーケティングやその他の啓蒙活動に投資する価値も上がった。また冷蔵コンテナの輸送もさかんに行われるようになったおかげで、酒をフレッシュに保つことができ、味もよくなる。そうなるとさらに人々の関心を集めるのである。
日本食以外のレストランでどのようなレストランが日本酒を出すようになったのか? まずアジアン・フ
ュージョン(アジア各国料理の融合)の店が考えられる。サンフランシスコの近くにある「グラスホッパー」
がその良い例だろう。そのフードメニューを例にあげてみると「マッシュルームとそばのサラダ」や「サー
モンとタラのコロッケ」などだ。何となくアジアの風が感じられるメニューに日本酒はぴったりだ。
アジアン・フュージョンなら驚きは少ないが、最近ではシカゴにある「チャーリー・トロッターズ」といっ
たような有名なアメリカ料理のレストランでもそのフードメニューにアジア系のメニューが加えられ、それ
と同時に日本酒もドリンクメニューに加えられた。
食べ物と合わせる際、日本酒は特別な位置に置かれている。輸入業者やレストランのオーナー、ワインのソムリエ達から僕が聞いた話をまとめてみると、たとえばグリル焼きの魚に赤ワインは強すぎる、けれどもそのソースに醤油や味噌などが使われていた場合、白ワインだとソースに負けてしまう。そんな時は日本酒がぴったりくるというわけだ。
これがまさに日本以外の国で、日本酒の人気が次の段階へ進むために、長い間僕がずっと願ってきた草の根のムーブメントだ―日本や日本食とは直接関係のない人々が日本酒を手にして試行錯誤している。もちろんまだ始まったばかりだ。でも日本酒にとって事態はますます良い方向へ向かっているのは明らかだ。

(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2004年04月号掲載