99セントのワインでほろ酔い気分

 アメリカでは、一一月末の感謝祭の連休からどこもここもクリスマス一色に染まり、街が急に色づき始める。道いく人々は、両手に紙袋を抱えなぜか急ぎ足だ。彼らが忙しそうにしているのは、クリマスプレゼントを買ったり、ツリーを飾ったりしなければならないという程度のもので、日本の年の瀬の、あのぴりりとした緊張感はここにはない。
 アメリカのビールは、七つの連休の間に、二八・五%が売れると聞いたことがある。一番売り上げの高いのが、七月四日の独立記念日で(四・九%)、次が九月第一月曜日のレイバーデー(労働の日)らしい。ビールが美味しい季節ということか。
 感謝祭には、丸々と太った七面鳥をいただく。行きつけの酒店のマネジャーに聞いたところ。感謝祭は、メルローだという。ローストターキーと合うらしい。
 シャンパンが一番売れるのは、ニュー・イヤーズ・イブだ。アメリカ人には、この日以外、シャンパンなど飲んだことがない、と豪語する輩もたくさんいる(ちなみに彼らが飲んでいるのは、スパークリング・ワインだが)。
 ワインセールの新聞広告がやたらに多くなるのは、一一月の半ばからだ。八〇年代や九〇年代には、これほど多くなかったが、いまやニューヨーク・タイムズ紙に、二面広告を載せる店も少なくない。それだけワイン人口が増えたということだ。かたやビールの個人消費量が前年を割り始めてから今年で五年を数える。
 ついせんだって、カリフォルニアの「セーブマート」という食品スーパーで、一ドル九九セントの自社ブランドワインを売り出したと聞いて驚いていたら、今度は、ロサンゼルスの「九九セント・オンリー」という、日本の一〇〇円ショップに似た安売りストアで、九九セントのワインを売り出したらしい。
 三年前、「トレーダー・ジョーズ」というナチュラル・オーガニック系の食品小売チェーンが、やはり一ドル九九セントのワイン、「チャールズ・ショー」を売り出し、連日おすなへすなの大賑わいだというので、私もシカゴ店まで取材に出かけて行ったことがある。
 店長さんの話では、毎日三〇ケースのデリバリーがあるが、開店と同時に売り切れるとのことだった。 トレーダー・ジョーズでは、いまもそのワインを、地域によって一ドル九九セントから三ドル九九セントで売っている。同店が賢かったのは、サプライヤーと契約を結んで、それを自店だけのイクスクルーシブ・ブランドにしたことだ。三年前のクリスマス、多くの人々が、普段は利用しないトレーダー・ジョーズの店を探して右往左往したのは言うまでもない。これによって、トレーダー・ジョーズは、かけがえのない顧客ロイヤリティを勝ち取ると同時に、ごっそり新規客を競合店から奪い取るのに成功したのである。
 今回そのライバル店が二店現れたということだ。九九セント・オンリーでは、一五種類のバラエティを揃えると発表している。もちろん、ちゃんとしたコルク栓つきのワインだ。
 ニューヨーク・タイムズ紙によると、昨年、ロスの新聞社が、五ドル以下のワインのブラインド・テイスティング・コンテストを催したところ、九九セント・オンリーで扱っている銘柄が、伝説のチャールズ・ショーを打ち負かしたそうな。
 おかげで、今年の年末年始の飲み会は、九九セントのワインで大いに盛り上がりそうだ。
(たんのあけみ:食コラムニスト、NY在住)

月刊 酒文化2005年02月号掲載