新春早々、サンフランシスコ出張が入っていたので、最終日にナパに繰り出した。あいにく朝から雨に降られてしまったが、運転手さんがワイン通だったこともあって、なかなか思い出深いワイナリーツアーになった。
何ヶ所か人気ワイナリーを訪れたあと気がついたのだが、自宅近くの店より、発売元のワイナリーで売られているワインのほうが、価格がやや高い。これには正直言って驚いた。
さすがに1本50ドル以上の銘柄になると価格差は縮まるが、ディスカウント店やスーパーに流通している30ドル以下のワインになると、市価の2倍というものもあった。
アメリカの流通業界でワインの売上が最も高いのは、会員制ホールセールクラブの「コストコ」である。そうした「薄利多売」商法の影響が、ここにも色濃く現れている。
結局ケース買いは諦めて、その代わり高級ワインの試飲にいそしんだ。どこでも3銘柄10ドルから15ドルで試させてくれるが、1本60ドルも70ドルもするワインを惜しげもなく開けてくれるので、何だか申し訳ないぐらいである。東海岸のちょっとしたレストランであれば、1本軽く120ドルはするだろう。これぞ千載一遇のチャンスとばかり、がぶがぶ飲み続けたら、何のことはない、日の暮れる前に、全員が酔いつぶれてしまった。
しばらくワインはいいやと思って戻ってきたら、某旅行代理店の支店長から誘いがかかった。面白いところがあるので連れていってやるという。自慢じゃないが、怖いもの、面白いもの見たさに、かれこれ20年間もニューヨークを離れられずにいる筆者である。そうと言われていまさら引き下がるわけにはいかない。
彼が連れていってくれたのは、ソーホーにある「ビンテージ・ニューヨーク」というワインショップ。ニューヨーク産のワインだけを売っている専門店だ。ニューヨーク州が、カリフォルニアに次いでワイン生産量が多いということは知られざる事実である。マンハッタン内に2軒の店を経営するこの店は、地元ワインのプロモーターと言ってもよい。
売場の奥のほうから笑い声が聞こえてきたので見上げると、テイスティング用バーカウンターに、20代の男女が群がって楽しげにワイングラスを傾けている。土地柄もあってお洒落な連中ばかりだ。なるほど、支店長はこれを見せたかったのか。
折角だから私たちもご相伴に預かろうと、やっとのことでカウンター席に陣取ったところ、イケメンのバーテンダーに試飲代を取られた。5種類5ドル。ほかの店は無料だが、代金を取る分この店では、100種類もの銘柄の中から自分の飲みたいワインを選ぶことができる。その上、50ドル以上ワインを買った場合、テイスティング料金が払い戻されるという嬉しいおまけがついている。
驚いたのは、平日だというのに若いお客がひっきりなしにやってくること。考えてみれば、たった5ドルで、5種類のワインが試せるというのはすこぶるお買い得だ。常連もいるらしく、ワインやレストランの話で盛り上がっている。話題性といい安さといい、日本のお客を案内したらさぞかし喜んでもらえるだろう。
翌日、女友達から映画に誘われた。「サイドウェイ」という中年にさしかかった2人の男たちが、カリフォルニアのワイナリーに、自分探しの旅に出かける話である。
はてさて今年はよくよくワインテイスティングに縁のある年らしい。
(たんのあけみ:食コラムニスト、NY在住)