酒の栄養成分表

 マクドナルドが、栄養成分表の印刷された包み紙にハンバーガーを包んで提供し始めた。ちなみに筆者の大好物のビッグマックは、バーガーだけで560キロカロリー、それにフライドポテト(大)とケチャップをつけると1140キロカロリーになる。これを燃焼するには、ジムで4時間、ハアハアいって汗を流さなければならない。数字を見た瞬間に食欲が失せた。
 事情はやや違うが、アルコール飲料業界でも似たような動きが出てきている。一部のビール、蒸留酒、ワイン製造業者が、商品のラベルに、自主的に栄養成分表を貼付することを許可してほしいと言い出したのだ。
 長年の間、米国のアルコール飲料メーカーは、すべての食品とノンアルコール飲料に義務付けられている栄養成分表の貼付を回避してきた。
 米や塩を始め、氷やミネラルウォーターにまでついている栄養成分表が、ビールやウイスキーやワインにはついていない。かたや商品情報の開示を要求する消費者の声は年々高まるばかりだ。
 アメリカには、アルコール飲料のブランド別栄養成分情報を提供しているウェブサイトがあるので、例えばアルコール度数5%のバドワイザー1缶(355ml)が、145キロカロリーあり、炭水化物が10.6g、タンパク質が1.3g含まれていることは調べられないこともない。しかし、そんな細かいことをいちいち覚えていられないので、他の食品や飲料と同じように、ビールの缶やワインのラベルに栄養成分表を貼付すべきだ、というのが消費者側の言い分である。
 それを受けて、一部のビール・メーカーが栄養成分表貼付の方向に動きだしたのは、蒸留酒と比べると「ビールは炭水化物の含有量が多い」という誤解を取り除き、それによってなんとかこの売上減少を止めたいという狙いがあるからだ、とシカゴ・トリビューン紙は書いている。
 反対に栄養成分表貼付に賛成しているハードリカー・メーカーは、ダイエットのため炭水化物の摂取に気を使っているユーザーに、蒸留酒には一切炭水化物が含まれていないことを強調して、さらにビール離れを助長しようと狙っている。
 同紙によると、米国内のビール売上高は、九九年から現在までに三・一%減少し、ハードリカーの売上高は三%上昇しているそうだ。ビールの個人消費量が年々減っているのは、昨今のワイン人気も少なからず影響している。アメリカでは毎年、「市民に最も頻繁に飲まれているアルコール飲料」の調査を実施している(ギャラップ調査)。それが〇五年、同調査を始めた九二年以来初めて、ワイン常飲者の数がビール常飲者の数を上回ったのだ。九二年に47%を占めていたビール愛飲家が、〇五年には36%に減り、この間ワイン常飲者は、27%から39%に激増している。ビール・メーカーが、何とかしてこの凋落モードを上昇モードに切り変えたいと望むのも無理はない。
 関連の消費者団体が要求しているのは、判断基準に必要なより詳しい商品情報と、用語や分量の標準化である。具体的に挙げると、アルコール度数、一杯分の量、一本に何杯分含まれているか、カロリー数、内容成分といった判断材料だ。とはいえ、果たしてどれだけの消費者が、ラベルに印刷された栄養成分表を読んで、酒の種類や銘柄を選ぶかは疑問である。これを提唱している人々は、酒を飲む習慣のない方々ではないかと思うのは下衆の勘ぐりであろうか。
(たんのあけみ:食コラムニスト、NY在住)

月刊 酒文化2006年04月号掲載