料理の鉄人モリモトがNY店をオープン

 三代目料理の鉄人、森本正治氏が満を持してニューヨークに第二号店をオープンした。一二〇〇万ドルというハリウッド映画級の大型予算でデビューしたモリモトは、米国版『アイアンシェフ』の威力もあって、一月末のオープン以来、連日連夜の大盛況。最近の日本食レストランには凝ったインテリアの店が多いが、なかでもモリモトは、世界的な建築家安藤忠雄氏による設計ということもあって、業界内外でオープンを待つ声が高まっていた。
 十番街通りに面した正面入り口は、世界最大と言ってもよい巨大な暖簾がかけられ、どこか戯画チックな印象。店内に入ると、階下(バー)に続く中央の階段と、奥のオープンキッチンの明るさがまず目につく。階段には、一七〇〇本の水の入ったペットボトルで作られたオブジェがライトアップされ美しく輝いている。一六〇席のメインダイニングは、通路が透明なガラスのパーテーションで区切られていてモダンなイメージ。驚くのは、テーブルの模様と、メニューや店のカードのデザインを統一していること。灰色のグラデュエーションに赤が効いたエレガントなデザインで、むろんチェアも特注。箸や箸おきもそれに併せて選ばれている。一四〇?のオープンキッチンには、二四席のスシカウンターと、八席のおまかせコース客用の席(一五〇ドル)が用意されている。
 パーテーションに関しては賛否両論あって、友人のレストラン・コンサルタントは、サーバーの動線や掃除の手間をまったく考慮に入れていない非効率的な設計、と辛口の評価。客にしてみると、隣の話し声が気にならないので至って快適である。器は白で統一され、凝った形のものが多い。同伴したレストラン経営者は、形がイレギュラーなので皿洗い機で洗えない上、割れやすく扱いにくい、とこちらも手厳しい。しかし、考えようによっては、見たこともない器に、見たこともない料理が盛りつけられて出てくるのだから、これほど愉快なことはない……。
 ドリンクメニューも、森本氏自身が酒ソムリエというだけあって、モリモトブランドの純米、吟醸、大吟醸に加え、一〇年ものや三二年ものの古酒、ソバエール、黒帯ソバエール、ピルスナーまで揃っていて圧巻である。焼酎も五品紹介している。カクテルは酒、ウォッカ、焼酎ベースのオリジナルが七品。これに赤白ワインが加わる。世界の食通が揃うマンハッタンでも一流店として通ずる過不足のないドリンクメニューだ。
 モリモトでは総勢四名でおよそ二〇品ほど注文した。メニューはスシのほかに、ラーメンや肉ジャガ、豚の角煮など、どこか懐かしさを感じさせる一品が多く、どれをとってもあっと驚く仕掛けがあってかつ美味しく、筆者としては大いに満足した。
 このところマンハッタンでは、メグやマツリ、ゲイシャ、エン、ノブ57、そしてモリモトなど、大型日本食レストランの進出が相次ぎ新たな日本食ブームを迎えている。一方若年層の間では、日本のアニメやマンガがカリスマ的人気を集め、地方紙が「ジャパン・クール」(かっこいいニッポン)と取り上げるほど注目されている。こうした日本文化の人気に着眼したジェトロが、日本食を「ジャパン・ブランド」として世界に売り出そうと、今春ニューヨークにて日本食文化協議会を発足させた。来年には、自社製品をアメリカで売り込みたいという有志を募って、こちらのレストラン見本市に出展するなど具体的な活動計画を練っている。
(たんのあけみ:食コラムニスト、NY在住)

月刊 酒文化2006年05月号掲載