9月のレイバーデイが終わると、アメリカはハロウィン一色に染まる。郊外に行くと、軒先に目と鼻と口を切り抜き、ロウソクを点したオレンジ色のお化けかぼちゃを飾り、庭にハロウィン用の飾りつけをしている家も多い。もとはといえば、アイルランドに住む古代ケルト民族が、大晦日に祝った祭だったらしいが、いまではお化けかぼちゃの仮装祭として、世界中に広まっている。
ニューヨークに暮し始めていちばん驚いたのは、ハロウィンになると、子供だけでなく大人も仮装をするということ。アメリカ人の茶目っけには慣れっこになっていたが、ハロウィンの朝、息子を小学校に送って行ったとき、教師やスクールバスの運転手どころか、60過ぎの校長先生までが、骸骨の仮装をして出てきたのにはびっくり。おまけに顔には、銀色のお化粧までしていた。
職場に行けば行ったで、ビルのドアマンは、斧でぶち割られた血みどろの被り物をかぶっているし、受付の男性はゾンビの格好で、不気味に笑っている。事務所のドアを開ければ、そこはすでにお化け屋敷と化しており、ドラキュラ、フランケンシュタイン、ノートルダムのセムシ男、なぜかマリリン・モンローに扮した白人男性もいる。最も目を見張ったのは、ミツバチの仮装をした隣のオフィスのドイツ人社長だ。黄と黒の縞々シャツに黄色いタイツ、背中に四枚の羽をつけ、大きなお腹を突き出した蜜蜂男が、取っておきのハニースマイルで訊くことには、「で、お前は一体何に仮装したんだい？」
ハロウィンは、クリスマスのように、誰彼なく贈り物を交換するというお祭ではないために、市場規模はそれほど大きくない。売上は、�〆佶�、�▲凜．譽鵐織ぅ鵐妊ぁ↓�謝肉祭、�な譴瞭�、�ド磴瞭�に次いで六番目。ちなみに売上高は、1位のクリスマス／感謝祭の53.5兆円と比べると、わずか5,800億円。1割強といったところだ。
とはいえ、年々、このイベントに参加する人が増えているのも確か。全米小売連合の調査によると、昨年は回答者の52.5％しかハロウィンに参加しなかったが、今年は63.8％が参加すると答えている。ハロウィンは祝日ではないが、もはや国民的イベントと言っても過言ではない。
ハロウィンといえば、甘いお菓子やチョコレートを売っている食品スーパーや、仮装用のコスチュームを売っている玩具店やパーティ用品専門店が大繁盛する。スーパーでは、お化けかぼちゃやコウモリ、蜘蛛の巣を模った、毒々しい色のカップケーキが飛ぶように売れる。どうみても美味しそうには見えないのだが、ハロウィンパーティにこうしたカップケーキを出すと、瞬く間に20個や30個がなくなってしまうくらい人気がある。
今年のハロウィンで目立ったのは、墨汁のように真っ黒なハロウィンカクテル。昨年あたりから出始めたのだが、今年はあちこちでよく見かけた。お化けカボチャを模ったオリーブや、プラスチック製のクモやコウモリをグラスに浮かべたりするのはまだ可愛気があるが、イカのクロスミそっくりのブラックウォッカで作った「ブラック・スクリュードライバー」など、味はともあれ、色があまりにもグロテスクなため、飲み込むのに勇気がいる。しかし、話題性のあるお酒があれば、イベントが一段と盛り上がるのは明らか。いつもシャンペンでは飽きてしまう。それぞれのイベントに合わせたユニークな飲み物があってもいいと思うのは筆者だけであろうか。（たんのあけみ：食コラムニスト、ニューヨーク在住）
