創作日本料理とワインの夕べ

 先夜、素晴らしい食事会に招かれた。仕掛け人は、知人の日本人レストラン・コンサルタント。十数年前知り合いのレストラン経営者に紹介され、その経営者が新しいネタを探しにニューヨークに訪れるたびに、そのコンサルタント女性と一緒に話題の新規レストランを案内するようになった。
 いま彼女は、ニューヨークで日本食のケータリングを手掛けている。着物の着付け教室も経営していて、着物ショーと日本食をドッキングしたイベントを演出するなどひっぱりだこ。
 そのコンサルタント女性から、6コースのワインと創作日本料理のペアリング・ディナーを催すから、ぜひ来てほしい、と連絡があった。場所はイーストビレッジ(ニューヨーク大学の近くにある日本食レストランや食品店が多い街)の、まだオープンしていないレストラン。オーナーは、なかなかつかまらないので有名なカリスマ日本人レストラン企業家で、コンサルタント女性が機転を利かせて、彼の隣に席を設けてくれるという。
 気鋭の日本人若手シェフが包丁を握るというのにもそそられたが、あまりテイスティングする機会のない、バージニア産ワインが思う存分試飲でき、ワインマスターから直接話が聞けるとあって、ふたつ返事でOKした。
 イベント当夜、まだ看板も出ていない”響屋“レストランを探し当て中に入ると、すでに何人かのゲストがシャンパングラスを手に談笑していた。四の五の言わず、喉の渇いたゲストに、早速ブリュをもてなすというのはなかなか気が利いている。
 見ると、ホステス役のコンサルタント女性が一人一人のゲストを引き合わせている。それが狙いでもあったのだろうが、まるで彼女の家に招かれたゲストのようだ。お客は厳選された18名のみ。ほとんどがフードサービス業界の関係者とみた。
 筆者の前には、賑やかなオーストリア人のシェフ夫妻が座った。この夫婦のよく食べ、よくしゃべり、よく飲むこと! とりわけ奥様は、話題が豊富なところにもって来て、話がUFOのようにぴょんぴょん飛ぶので、日本人にとってはそのスピードについていくだけで至難の業。
 この夜の主役とも言えるバージニアワインだが、粋人として知られる米国3代目大統領トーマス・ジェファーソンが、大使として駐在していた仏国でワイン造りを学び、帰任後、生まれ故郷のバージニアでワイン造りを広めようとしたという話は、ワイン通でなくとも知っている。彼の存命中には実現しなかったワインメーキングの夢が、200年たったいま、美しいバージニアの大地で実を結び、いまや毎年何十万人ものワインファンを当地に引き寄せている。この夜披露されたのは、ジェファーソンゆかりのバーバーズビル・ビンヤードのワインで、当イベントのためにわざわざ足を運んでくれたイタリア人のワインマスターが、1コースごとに説明してくれたワインメーキングの話が実に印象的で興味深かった。
 参考までにこの夜のペアリングメニューを紹介すると、鰻の博多風サンドイッチ(ブリュ)で始まり、ポータベローきのこの揚げ浸し(ソービニョンブラン2005)、前菜盛り込み(シャルドネー2005)、アラスカ産天然キングサーモン西京焼き(メルロー2004)、ニュージーランドラム北海道香味焼き(オクタゴン2004)と続き、最後にホットチョコレートムース+チーズケーキ奉書焼き(デザートワイン)で締めくくられた。
(たんのあけみ:食コラムニスト、ニューヨーク在住)

月刊 酒文化2007年04月号掲載