日本食文化Festival in NY

 3月初旬、春とは名ばかりの凍えるように寒いニューヨークにて、日本食文化フェスティバルが開催された。アメリカ市場における日本食文化の普及を目的とした同イベントは、同市で開かれていた国際食品見本市への日本食品展示に始まって、著名な外食業界エキスパートを講師に招いたシンポジウムや、400名以上のマスコミや、レストラン関係者が一堂に会した「ジャパニーズ・フード・フェスタ」、さらには40店もの日本食レストランが参加した「ジャパニーズ・レストラン・ウィーク」までと、いままでにない大掛かりなもの。
 主催は、日本食文化フェスティバル実行委員会で、ジェトロ・ニューヨーク、ニューヨーク日本商工会議所、日本クラブ、日経新聞、キッコーマン、伊藤園など日系企業の後押しで実現した。海外でこれほど大きな日本食のイベントを催すのはもちろん初めての試みで、準備に1年以上の時間を費やしたそうだ。その甲斐あって、見本市のジャパン・パビリオンといい、シンポジウム、フード・フェスタといい、予想を上回る盛況振りで、フード・フィエスタに関しては、座席が足らず新たにテーブルを追加したほど。
 日本の伝統的な懐石料理を、本場京都からやってきた三大シェフが目の前で実演すると聞いて、日米双方のTV局、新聞、雑誌社の取材陣が駆けつけ、てんやわんやの大騒ぎ。ステージの上では、老舗たん熊の経営者兼料理長である栗栖兄弟や、梁山泊の橋本シェフが、包丁さばきも鮮やかに、春の刺身の盛り合わせ4点と蓮蒸しを披露。レンコンのおろし方から、だしの取り方まで見せるという念の入れようで、感動的だったのは、ステージで作られた蓮蒸しがちょうどよい頃合にテーブルに運ばれてきて試食できたことだ(さすがに刺身はサーブされなかったが)。
 3名の懐石シェフによる料理デモンストレーションが終了したあと、ふと見ると、アメリカ人が集まって興奮状態でワイワイ言っているので、何かと思ってのぞいたら、隣室で菰樽の鏡開きが行われていた。アメリカ人にとっては鏡開きも珍しいが、何よりも彼らが気に入ったのは、盃の無料進呈。酒を飲み干したあと、各々大切そうに盃を紙で包み、上着のポケットやハンドバッグに忍ばせていたのが印象的だった。
 第二部は、ニューヨークが世界に誇る四ツ星レストラン『ブレイ』のオーナー・シェフ、デビッド・ブレイ氏による実演。ブレイ氏は、元々フランス料理出身だが、日本の辻料理学校でさまざまな日本食のスキルを身につけ、それを独自の料理法に生かしているという数少ないアメリカ人シェフである。ブレイ氏自身も大の日本食ファンで、ニューヨークの日本食スーパーで、買物している姿を何度か見かけたことがある。
 この日、ブレイ氏が披露してくれたのは、トリュッフだしの豆腐料理と、ホタテとフォアグラを湯葉で包んで直火で焼いたものの2品。氏は、自分の店で定期的に料理教室を開催していることもあって、こうした実演はお手の物だが、アメリカ生まれの有名シェフが、日本の食品や料理器具を一品一品名指しで薦めるというのは、実に説得力があるものである。筆者の隣に、菜食中華料理で有名な『ゼン・パリット』のシェフが座っていたが、熱心にメモを取っていた。日本の食品もブレイ氏のような影響力のあるシェフに代弁してもらうと、まったく抵抗なくアメリカ人に受け入れられるのだなと、改めて感心した。
(たんのあけみ:食コラムニスト、ニューヨーク在住)

月刊 酒文化2007年05月号掲載