ドライ・シティ

 テキサス州のラボックという町に取材に出かけた。そこにできた新しいスーパーに、ドライブスルーのコンビニが併設されているというのである。ドライブスルーのあるFFショップや薬局は珍しくないが、ドライブスルーのコンビニというのは、さすがに聞いたことがない。
 大概のコンビニは、駐車場から入り口まで歩いて一〇秒とかからないし、レジでの待ち時間も短い。にも関わらず、その時間すら惜しいと思う超多忙な米国人が増えているらしい。
 「ア・テイスト・オブ・マーケット・ストリート」というそのコンビニに行ってみたところ、作り置きのサンドイッチやサラダなど、即食べられる“レディ・トゥ・イート”商品が多かった。二人分の夕飯がセットになった商品も置いてあった。むろん、ソーダやジュースやタバコも売っている。
 観察していると、コーヒーやタバコを買う男性客に、食パンや牛乳を買う女性客が混じっている。ピザとソーダを買う若者もいる。目的買いの客にしてみれば、確かに時間が節約できるし、特にテキサスのような暑さの厳しい地域では、エアコンのきいた車に座ったまま買物ができるので、こんな便利なものはない。
 驚いたのは、取材のあと、そのコンビニでビールを買おうとしたときだ。ビールは売っていないというのである。同じ敷地内にあるスーパーでもビールを置いていなかったので、まだ酒類販売許可がおりていないのかと思った。それで、どこに行けばビールが買えるのかと訊いたところ、このあたりではどこも売っていないと言う。だったら違う場所に行ってみようと、一〇分ほど車を走らせて近くのコンビニに寄った。信じられないことだが、その店でもビールを売っていなかった。気の毒そうに店主が言うことには、ラボック市内の小売店では、アルコール飲料の販売が一切禁止されている代わりに、レストランやバーでの飲酒が許可されている。だが、同じ郡にあるラボック以外の町では、それとは逆に、スーパーやコンビニでの酒類販売は許可されているが、自宅や会員制のクラブといったプライベートな場所以外では、酒を提供してはいけないという法律になっているというのだ。こうした法律を実施している市を、“ドライ・シティ”と呼ぶのだと店主は教えてくれた。いかにも人の良さそうな店主は、その後、市境に行けば酒店があると、その場所をこっそり教えてくれた。
 テキサスの猛暑でひりひりに乾いた喉を冷たいビールで潤すべく、我々は市の境界線に向けて、ひたすら車を飛ばした。しばらく行くと、七色のネオンサインをぎらつかせた、大型キャバレーの団地みたいな場所が見えてきた。ガソリンスタンド大の店が六、七店並んでいるのだが、どう見ても場末のストリップ劇場かラブホテルにしか見えない。おそるおそるなかに入ってみると、どの店もドライブスルーになっている。いかがわしいモーテルと違うのは、店頭に威勢のいい若者がずらりと並んで、次から次へとドライブスルーに乗り入れてくる客から注文を取っては、後ろのトランクにケースごと冷えたビールを積み込んでいること。なんとここもドライブスルーなのだった。
(たんのあけみ 食コラムニスト、NY在住)

月刊 酒文化2007年09月号掲載