ソムリエをレンタルする

 アメリカに住んでいると、金持ちの話には事欠かない。2007年100万ドル(約1億1000万円)以上の流動資産を持っている米国人世帯が、930万件を突破した。昨年のゴールドマンサックス社会長のボーナスは、およそ60億円。米国トップ企業のCEO 20人の平均年収は、ヨーロッパのほぼ3倍の40億円だった。
 町営空港では、連日何機ものプライベートジェットが慌しく離着陸し、“エアータクシー”などどいう新ビジネスも登場した。ジェット機のタクシーだ。まだ乗ったことはないが、1時間33〜34万円でチャーターできるらしい(6〜8人乗り)。
 世界最大の金融街を擁するマンハッタンでは、道を歩けばバブリーな金持ちの話に当る。3年前にできた新双子ビル、タイムワーナーセンターは、ショッピングモール、オフィス、ホテル、コンドミニアムが一緒になった複合施設だ。その最上階に並んだ二つのペントハウスは、どちらも40億円以上で売れたと聞く。
 かたやこの国には、4人家族で200万円前後(貧困線)の世帯年収しかない“プアー”と呼ばれる人々が、4000万人近くいる。これに貧困線の2倍以下の世帯年収しかない“ニアプアー”と呼ばれる人々を併せると、ほぼ1億人になる。つまり、アメリカ人の3人に1人が、プアーかニアプアーということだ。
 貧乏人の生活は、言葉や習慣が違ってもどこか似通っているが、金持ちのライフスタイルは多様である。この間、知人のアパート探しに付き合った。不動産バブルがはじけて米国中が大騒ぎだというのに、マンハッタンの家賃は一向にさがる気配を見せない。高級アパートのアメニティにも流行があって、10年前であれば、ドアマンやコンシェルジュのいる、スポーツジム(温水プール、サウナ)つきアパートがもてはやされた。
 今回いちばん驚いたのは、映画室付きのアパート。収容人数は20人程度で、内装は超ラグジェリアス。映画も毎週変えているそうだ。その隣は、広々とした多目的スペースになっていて、大型TVを備えた豪華ラウンジが三ヶ所、プールバーが二ヶ所に設けられ、PCやプリンターを置いたビジネスセンターやダーツ競技スペースもある。ハイエンドホテル顔負けのアメニティ。おまけに、おしゃれなオープンキッチンまであって、毎朝無料の朝食が提供されている。新聞紙や雑誌の類もすべて無料だ。笑えるのは、ミニ・スターバックスが出店していること(これも無料)。その上、館内の至るところで無線LANが使用可能になっている。
 住んでいるのは、ほとんどが20代後半から30代のヤング・リッチ。常に出会いのチャンスを求めるパーティ・ピープルの彼らは、一晩に二ヶ所も三ヶ所もパーティをハシゴする。招待されるだけでなく、自宅でもよくパーティを催す。
 彼らの親の世代は、そういうときグルメショップやレストランに出前を頼んだものだ。が、グルメ時代に育った本物志向派の彼らは、気軽にプロのシェフやソムリエを雇う。いまマンハッタンで人気があるのは、「ア・カサ」(スペイン語で“家で”という意味)というソムリエのレンタルサービスだ。四ツ星伊料理店のソムリエ経験者が始めた。ディナーであれば、1人125ドルで、舌なめずりするような料理と様々なワインを自宅でサーブしてもらえる。従来のケータリングと違うのは、ワインの産地や製造方法、スタイルについて、経験豊富なソムリエに説明してもらえること。チーズとワインのテイスティングコースもあり、ワインやグルメ料理に目のない食通を惹きつけている。
(たんのあけみ:食コラムニスト、ニューヨーク在住)

月刊 酒文化2008年02月号掲載