アメリカの食品小売業界で、いま最も注目されているのは、新タイプのミニスーパーの動きだ。この一年間に、ウォルマートやセーフウェイをはじめとする大手スーパーが、競って小型の新フォーマットを出店した。その火付け役となったのは、○七年一一月、ロサンゼルスにディスカウント・ミニスーパーをオープンした英国小売業者のテスコである。以来、大手チェーンが、まるで示し合わせたように、小型スーパーの開発に乗り出したというわけだ。
新しいミニスーパーの店舗面積は、一〇〇〇〜一五〇〇�屐�コンビニのほぼ二倍の大きさだ。新業態店が、コンビニとどう違うかというと、まず品揃えが違う。端的にいえば、新しいミニスーパーは、生鮮、総菜、ワインに特化している。青果やミート売場には、オーガニック野菜やナチュラル食品も多い。昨今は、セブンイレブンでもオーガニック食品をおいてはいるが、あれは「うちにだっておいていますよ」の世界で、コンビニにオーガニック食品を買いに行く消費者は、まだまだ少ない。
次に、これらのストアは、なんらかのミール・ソリューション（食事の解決策）を提供しているということ。焼きたてのパンや炙り焼きのチキン、目の前で焼いてもらえるピザ、ホットデリ、レディ・トゥ・ヒート総菜、付け合せのサラダ、一人前からファミリーサイズまで揃っているデザート、そしてグルメチーズの数々。これらを締めくくるアンカー的存在が、ワイン売場だといってもよい。力を入れている店では、五〇〇アイテム近くを揃えている。むろん、どのストアも、魅力的なチルド地ビールも置いている。ウォルマートの店には、ハードリカーを置いているところもある。
興味深いのは、どのチェーンも、はなっから週末の来店を期待していないこと。代わりに、平日の売上を狙っている。月曜から金曜までの午後四時以降が勝負。何しろこの国は、「店に行ってから何を買うか決める」という客が七割もいる「究極の衝動買いの国」なのだ。ミール・ソリューションに注力しているのもそのためである。ゴールは、週の平均来店頻度を、四、五回まで上げること。このあたりは、コンビニと大して変わらないが、提案しているライフスタイルは大違いだ。新型のミニスーパーは、レストラン級の夕食を、ファストフードの時間枠で提供しようというのだから。
そうこうしているうちにテキサス州ダラスの「マーケット・ストリート」というガソリンスタンド併設スーパーの駐車場に、ドライブスルーのミニスーパーができた。お客は、車に乗ったままで、夕食のおかずや冷えたワインやビールを注文し、それを店員に、車に積み込んでもらうことができる。サービス料はかからない。徹底した車社会のアメリカでは、ファストフードやスターバックスに限らず、処方箋薬の注文も、銀行でのお金の出し入れも、ドライブスルーでＯＫ。それが、いまや食品の買物も、ドライブスルーになってしまいそうな勢いだ。というのはやや大げさだが、コンビニの使い勝手のよさと、ヘルシーかつグルメな食スタイルを提供する新タイプのミニスーパーが出現し、ミール・ソリューションと共にワインが、大きな牽引力になっていることは注目すべき動きだ。これらはまだ実験段階に過ぎないが、市場飽和に伴い、都市部市場に入り込む際の新ツールとして、多くの小売業者が期待をかけている。
（たんのあけみ ＮＹ在住）
