セルフレジでの酒販売禁止

 カリフォルニア州で、スーパーのセルフ(無人)レジでの酒類販売が禁止になる可能性が出てきた。レジに係員がいないと、酒の万引きが増え、未成年やアルコール依存症者の飲酒を助長する、というのがその理由だ。
 セルフレジは、5、6年前から米国のスーパーで導入され、男性客や急ぎの客に重宝されている。基本的にどこの店でも、係員がいないとワインやビールがスキャンできない仕組みになっていて、係員が身分証明書(運転免許証)で年齢を確認した後、コードを打ち込んで初めてスキャンが可能になる。州によって法律は違うが、年齢(21歳以上)のほかに、客が酩酊していないかどうかを確認させている州もある。
 酒を万引きしようと思ったら、誰でも有人レジより、係員の目が届きにくいセルフレジを選ぶだろう。とはいえ、万が一、スキャンせずに酒の瓶をレジ袋にしのばせることができたとしても、すぐに見破られてしまう危険性がある。セルフレジでバーコードをスキャンすると、価格と共に1品1品の重量も加算されるため、スキャンしていない商品を袋に入れると、その分誤差が出、たちまち係員に通報されるようになっているのだ。よって万引きする場合は、有人、無人に関係なく、ポケットやバッグに入れて持ち帰るほかない。
 カリフォルニア州は、米国最大のワインの産地ということもあって、他の州と比べると、酒類を扱っているスーパーの数が圧倒的に多い。うちセルフレジを入れている店も少なくないが、そういう店でも8割から9割の客は有人レジを利用している。この議案が通ったところで、「お酒は係員のいるレジにてお支払いをお済ませください」と貼紙を出せばいいだけのこと。困るのは、「フレッシュ&イージー」のようにセルフレジしか入れていないチェーンだ。
 2年前、イギリスのテスコが、鳴り物入りでオープンした同店は、扱い商品のほぼ8割が自社企画商品というユニークな小型店。“オーガニック食品や総菜、パン、精肉・鮮魚が、破格の値段で買える店”という謳い文句で、南カリフォルニアを中心に、いまでは120店以上に増えている。同店で扱われているワイン170品目のうち60品目がPB。その幾つかが、今年国際ワインコンテストで29もの賞を獲得した。酒類販売に力を入れているフレッシュ&イージーにとって、この議案が通れば、大きな痛手となるだろう。
 未成年の飲酒を減らすために、実験的に無人のワインキオスクを導入しようとしている州もある。東海岸中部のペンシルベニアだ。同州は、アルコール飲料の物流を州政府が管理しているコントロール・ステートのひとつ。このワインキオスクで酒を購入する場合、客はまず運転免許証をスロットに入れ、ビデオカメラの前に立つ。年齢と顔の照合は、キオスクでの決済をモニターしている酒類管理センターの担当官が行う。血中のアルコール濃度は、キオスクに内蔵されたブレスセンサーに息を吹きかけるだけで、即表示される仕組みになっている。
 米紙によると、カリフォルニア州だけでも、230万人の未成年者が酒を飲み、そのために同州の納税者は、年間7,300億円もの金を払わされているそうだ。未成年の飲酒は確かにのっぴきならない社会問題ではあるが、たかだかワイン一本買うために、無人のキオスクで、カメラに向かってニッと笑ったり、センサーにハーハーと息を吹きかけたりするのだけは御免こうむりたい、と願うのは筆者だけであろうか。
(たんのあけみ:ニューヨーク在住)

月刊 酒文化2009年10月号掲載