プラスチックボトルは地球を救えるか

 先日、米経済誌を読んでいたら、「ワインの輸送は、ワインの入ったガラス瓶を輸送しているようなものだ」と書いてあった。確かに時代物のワインのなかには、中身のワインよりボトルのほうが重いものも少なくない。ガラス瓶は、安くてリサイクルが容易だが、重くて、割れやすいという難点がある。むろん、輸送費も馬鹿にならない。が、ワイン製造業者が、長期間品質維持の可能なガラス瓶の恩恵をこうむって、ここまで成長したことも確かだ。
 いま米国では、重いワインケースを積んだ輸送トラックが、どれだけ環境に負荷を与えているかが論議を呼んでいる。件の雑誌によると、年間にしておおよそ63億トン、なんと地球全体の温室効果ガスの1パーセントが、ワイン輸送によって排出されているそうだ。これは、ワイン製造業者やサプライヤーや小売業者だけでなく、ワイン愛好者にとっても、かなりショッキングな数字だといえよう。
 そこで、急遽プラスチックボトルが、ガラス瓶の代替品として見直され始めた。元々、プラスチックボトルは、ガラス瓶のように空気を完全に遮断できないという弱点があって、特にワインの長期保存には適していないと考えられてきた。現在市場に出始めているプラスチックボトル入りワインにしても、賞味期限は短い。が、その分、求めやすい価格になっているし、ワインが残った場合、キャップを閉めて保存できるという大きなメリットもある。
 プラスチックボトル入りワインは、まだハイエンドなワインショップでは扱われていないが、安売りスーパーの箱型ワインのコーナーなどに、少しずつ置かれるようになった。ヨーロッパでは、2、3年前から環境への負荷を考慮に入れて、自主企画ワインにプラスチックボトルを起用するスーパーが増えている。
 この問題がマスコミで報道されたとき、10年ほど前のコルク栓論争を思い出した。ワイン栓に使われているコルクが、環境破壊(森林伐採)を助長しているというので、一時大きな問題になったのだ。結果、そういう事実はないということで騒ぎは収まったが、それが契機となって、プラスチック(合成樹脂)栓の良さが見直され、いまやプラスチック栓は、安価なテーブルワインだけでなく、そこそこにネームバリューのあるワインにも使われるようになった。もちろん、コルク栓を脅かすほどの勢力にはなってはいないが、プラスチック栓と同様、プラスチックボトル入りワインも、市場に定着するのは時間の問題と、多くの関係者は見ている。
 それにしても、世間というのは勝手なものである。ほんの少し前まで、プラスチックは環境保護団体の目の敵にされていた。ボトルウォーターが出始めてから、ペットボトルの廃棄量が大幅に膨れ上がり、それらがほとんどリサイクルがされていないという事実が明るみに出たからだ。言うまでもなく、市民の血税が、その処理に使われている。これを受けてサンフランシスコ市では、3年前から役所内でのボトルウォーター販売を禁止。シカゴ市では、一年前から水のペットボトルに5セントの課金をし始めた。インテリ層や環境保護意識の高い企業を中心に、ボトルウォーター利用を削減する動きもある。プラスチックボトル入りワインがガラス瓶にとって代わる日は、おそらく訪れないかもしれないが、これを機に環境負荷を軽減する方法を考えたいものである。(たんのあけみ:ニューヨーク在住)

月刊 酒文化2009年11月号掲載