アルコールとカフェイン

 いま米国で若者に人気のカフェイン入りアルコール飲料の安全性が大きな問題になっている。若年層にカフェイン中毒が増えているとマスコミが騒ぎ出したのは、いまから2、3年前のこと。カフェインを強化したエネルギードリンク(例えばレッドブル)やコーヒーの飲み過ぎがその原因とみなされている。それが年々、低年齢化をたどっていて、最近では10代にもカフェイン中毒が増えているという。
 レッドブル・ブームは、若者を主客層としたマンハッタンのクラブやラウンジで起こった。ウォッカをこれで割ると、いくら飲んでも眠くならないし、頭がスキッリして朝方まで遊んでいられる、というのがウケて、レッドブル入りウォッカは面白いように売れた。しばらくすると、レモンやライムや緑茶入りのウォッカやジンが店頭に現れ、それを追いかけるようにカフェイン入りビールが出始めた。製造元は、バドワイザーとミラー。ウォッカのレッドブル割りがあれほど売れるのであれば、カフェイン入りビールも売れるに違いないと考えたのである。事実、2社から発売されたカフェイン入りビールは、ぐんぐんと売上を伸ばしていった。これを憂慮した消費者団体や民間の健康促進団体が、州の司法長官に訴え、結果として2社は、昨年、今後カフェインやガラナなどの興奮剤を入れたビールを製造しないことに同意した。
 陳情の趣旨は、「カフェイン入りビールはユーザーの健康や安全を脅かす可能性がある」というもの。懸念されていたのは、体は酔っていても頭が覚醒しているため、自分は酔っていないと判断し、交通事故等を招く恐れがあるということだった。大手メーカー2社の同意を得ていったん収拾したかに見えた同問題が再燃したのは、昨年の9月である。18州に1都市を加えた19名の司法長官が、カフェイン入りビールを取締る規制を設けて欲しいという連名署名入りのクレームを、米食品医薬品局に送ったのだ。
 というのも、昨年お目こぼしになった中小のメーカーが、我先にとカフェイン入りビールを売り出したからである。調査会社のニールセンの報告によると、某メーカーは、今年6月までの1年間に、前年比2680%増の売上を上げたそうだ。これを受けて食品医薬品局は、計30のメーカーに、むこう1ヶ月間に、自社製品の安全性を裏付ける科学的証拠を提出するようお達しを出した。立証されない場合、これらのビールは店頭から消える運命にある。
 酒とカフェイン飲料を混ぜて飲むのは、いまに始まったことではない。代表的なものには、アイリッシュコーヒーやバーボンウイスキーのコーラ割がある。筆者がニューヨークに来たばかりの頃、隣りのロングアイランドという島で、騙されて飲んだロングアイランド・アイスティーにもコーラが入っている(ベースはウォッカ、ジン、テキーラ、ラム。それをコーラとレモンジュースで割る。見た目も味もアイスティーにそっくりだがめちゃくちゃ強い)。
 どんな酒も適量をわきまえて飲めばこんな楽しいものはない。問題は、それを知るためには飲み続けるほかないということである。
(たんのあけみ:ニューヨーク在住)

月刊 酒文化2010年02月号掲載