スーパーのバー

 フィラデルフィアで、店内にフルサービスのバー&レストランが入った大型スーパーマーケットがオープンした。店の名前は、ウェグマンズ・マーケット。九○代初めに、革新的な「ミール・ソリューション」(食事の解決策)売り場を核とした新業態店をつくり、世界中に名を轟かせたチェーンだ。現CEOは、日本にも講師として何度も招聘されている業界セレブである。
 ウェグマンズが店内でフードサービスを手がけるのは、これが初めてではない。これまでにも青果やシーフード売り場の隣りに、オープンキッチンや対面式カウンターを設けて、フードサービスの実験を行ってきたし、ストアの敷地内にレストランも経営している。が、今回のように、シェフやウェイトレスやバーテンダーを揃えた本格的なレストランを、店内で運営するのはウェグマンズにとっても初めての試みである。
 話題のレストランの名前は、「ザ・パブ」。寿司、中華、スープ、サンドイッチ、総菜等の売り場が集まった「マーケット・カフェ」のなかに設けられている。天然石英を贅沢に使ったバーカウンターや、桜材のフローリングなど、重厚な雰囲気の「ザ・パブ」は「アイルランド風パブ」がデザインのモチーフになっている。昔からウェグマンズは、誰も考えつかないような奇抜なアイデアを、どんどん取り入れて大きくなったチェーンだが、「ザ・パブ」も、とてもスーパーの一角につくられたレストランには見えない。席数は六三席。オープンキッチンのなかが見渡せるバーカウンターには、二四人の客が座れるようになっている。
 提供しているフードは、ハンバーガーやカニコロッケ、グリルドサーモンなどの人気アメリカ料理だ。価格は、メイン料理が八〜一二ドル、前菜が二〜九ドルとなっている。ドリンクは、ビールは、生ビールが八品、瓶ビールは国産、輸入併せて二〇品、地ビールは一六品揃えていて(三〜四・二五ドル)、生ビールの「フライト」(試飲)も提供している(ただし三種類以上)。
 ワインは、赤(一三品)、白(九品)スパークリング(一品)を、一杯五〜八ドルで売っている(ボトル売りも可)。スカッチやバーボン、リキュールも提供している。
 面白いのは、レストランの入り口横に、国産、輸入もののビールがずらりと陳列されていることだ。ここペンシルベニア州では、アルコール飲料の販売が規制されていて、住民は、スーパーではなく近くのバーでビールを買っている。それも一人当たり二パックまでと量が決められている。ウェグマンズでは、店内でフードサービスを提供しているため、酒類販売許可が下りたとのことだ。ちなみに「ザ・パブ」の入り口には、およそ七五〇本のテイクアウト用ビールが売られている。
 ウェグマンズには、「ザ・パブ」のほかに、二〇〇名近くの客が座って食事のできるダイニングルーム(無料)がある。「ザ・パブ」との違いは、給仕サービスがあることと、テーブルでビールやワインが注文できることだ(ただしチップは厳禁)。気になるのは売上高だが、某業界紙によると、「ザ・パブ」利用客の二○%しか酒を注文していないそうだ。このところ店内でレストランをテストする米スーパーが増えているが、まだまだ消費者は、食品スーパーのなかで食事をしたりワインを飲んだりすることに慣れていないようである。ウェグマンズでは、今年オープン予定のもう一店のストアでも、「ザ・パブ」を開く予定だ。
(たんのあけみ・NY在住)

月刊 酒文化2010年06月号掲載