新しもの好きのアメリカ人が泣いて喜ぶような可動式の生ビール・ディスペンサーが、米東海岸のバーやレストランに登場し大きな話題を呼んでいる。
商品名は「ドラフト・マスター」。直径一三〇�臓�高さ一一〇�造留澆ぅ董璽屮襪両紊法▲譽弌爾�二本ついていて、それを横に倒すと注ぎ口から生ビールが出てくる仕組みになっている。このテーブルには四、五人の客が座れるようになっていて（立ち席の場合は七、八人）、下の台の部分には二個のビア樽と冷却システムが入っている。可動式とはいっているものの、かなりの重量（二五〇�繊砲里燭瓠�多くの店では決まった場所に設置して客を案内している。
「ドラフト・マスター」の長所は、生ビールを自分で注ぐというスリル感と、多人数でわいわい盛り上がることができるというエンターテイメント性に尽きる。飲みたいときに飲みたいだけ生ビールを注いで飲めるというのもいい。さらに、忙しそうに走り回っているウェイターをつかまえて、いちいちビールを注文する煩わしさがないことも大きな魅力になっている。短所は、ひとつのテーブルで二銘柄までの生ビールしか味わえないこと。もし連れのなかに、ほかの銘柄のビールが飲みたいという客がいれば、別に注文するほかない。もうひとつ、例えば少人数でセルフ・サーバーを頼んだ場合、誰かひとりテーブルで留守番をしていないと、見知らぬ客がやってきて勝手にビールを注いでしまうことも起こりえる。これに関して店のほうでは、ウェイターかバーテンダーに一言テーブルを離れると言ってくれれば、その間サーバーをストップすると答えている。
米国では州によって規制が異なるが、大概の州では一テーブルにつき、一一パイント（約五・二�函砲泙農献咫璽襪鬟機璽屬垢襪海箸�できるそうだ（店側は一人につき二杯と説明している）。無線ＬＡＮによってバーテンダーは、それぞれのテーブルでどのくらいの量のビールが消費され、あとどのくらい残っているかが常にチェックできるようになっている。全部飲み干し、客が追加の注文をしてきた場合は、酩酊の具合をみて注文を断ることもあるという。
「ドラフト・マスター」の生みの親は、アイルランドの元パブ経営者だったとか。三年前、発明者からこのアイデアを買った現メーカーが、ギネスビールメーカー、ディアジオのてこ入れで米国進出までこぎつけたものらしい。英誌によるとディアジオは、このテーブルを九〇〇台購入し、アイルランドにある二五〇のパブに備え付けたそうだ。調べたところ、この「ドラフト・マスター」は、米国内では一台七八五〇ドルで売られているそうだ。無線ＬＡＮシステムは別売りで二〇〇〇ドルというから、一台ほぼ一万ドル。それを九〇〇台も買い占めるというのは、世界最大手のメーカーだからできることなのだろう。
数年前このコラムで「イノティカ」というワインの自動テイスティング機について書いたことがある。おしゃれなステンレス製のディスペンサーにプリペイドカードを差し込んで、何種類ものワインを試飲することができる便利な機械だ。いまではサンフランシスコやシカゴでも見かけるようになった。この二つの機械に共通するのは、古くからあるワインやビールに、まったく新しい魅力を付加し、ユーザーに興味を起こさせたことだ。歳末シーズンを控え、「ドラフト・マスター」が引っ張りだこになるのは想像に難くない。（たんのあけみ・ＮＹ在住）
