低カロリーのナチュラルカクテル

 酒類メーカー大手のビーム・グローバルが、米リアリティ番組のスターが売り出したプレミックス・カクテルを買収し、話題になっている。商品名は、スキニーガール・マルガリータ。七五〇mlのスレンダーな赤いキャップのボトルに入っていて、一本一五ドル前後で販売されている。中には、テキーラ、アガベ(竜舌蘭)シロップ、ライムジュース、トリプルセックが含まれている。
 同商品の売りは、カロリーが低く、成分がオールナチュラルだということ(スキニーガールは、「痩せこけたがりがりの女の子」という意味)。もちろん、いちいち材料を揃えたり、計量したりする手間もなく、手軽に本格的なマルガリータが楽しめるという利点もある。
 カロリー数は、四オンス(一八ml)あたり、一〇〇キロカロリー。スキニーガールの生みの親である自然食料理家兼ミクソロジストのベサニー・フランケルさんは、レストランやバーでサーブされている一般的なマルガリータだと、同量で五〇〇キロカロリー、つまり五倍はあると、ホームページに記している。
 ちなみに、ミクソロジストとは、バーテンダーのこと。特に、カクテル作りの得意なバーテンダーを指す。『ニューヨークのリアル・ハウスワイフ』という人気リアリティ番組で一躍有名になったべサニーさんは、もともとナチュラルな食材で料理を作ることを専門とするシェフをしていた。それと同時に、スリムなボディを維持するためのカクテルレシピの開発もしていて、たまたま番組のなかで彼女が紹介した、天然素材で作った低カロリーのマルガリータ、つまりスキニーガール・マルガリータが、ダイエット志向の米国女性たちの目を釘付けにし、レシピを教えて欲しいというリクエストがテレビ局に殺到したらしい。
 茶目っ気たっぷりの憎めない性格と、ウィットに富んだ会話で、あっという間にお茶の間の人気者になったべサニーさんは、いまでは自分だけのリアリティ番組を持つカリスマ主婦。抜け目のない起業家でもある彼女は、ダイエットのために、カロリー数の高いカクテルを避けている女性があまりにも多いことに目をつけ、ナチュラル成分で作った低カロリーのプレミックス・カクテルという新カテゴリー商品の開発を思いつく。いままでにも似たような商品は存在したが、どれにもハイフラクトースコーンシロップ(異性化糖)や、人工着色料が使われていた。カクテル好きの健康志向女性をターゲットに、二年前べサニーさんはスキニーガールを売り出した。それが年間一〇万ケースを売り上げる人気ブランドに急成長し、大手メーカーの目に止まったというわけである。
 ヨーロッパや日本でも、女性客を狙った卓抜な酒マーケティングが注目されているが、米国でも近年、女性向け市場開拓の動きが目立ってきている。NPDグループが行った外食業界での男女の酒注文比較調査によると、男性客の注文量が女性客よりまだ一◯%上回っているものの、女性客の注文量は、◯九年に九%、一◯年には三%伸びている。かたや男性客は、◯九年に四%、一◯年には六%も注文量が減っている。家で飲む酒になると、六五〜七◯%が女性客によって購入されているというのだから影響力は甚大だ。店側もよく心得ていて、女性コーナーと称して、フルーツビールや果汁フレーバーのウォッカやウィスキーを一纏めにして陳列している。今夏はスキニーガールの類似商品が市場に続々登場するのは間違いないだろう。
(たんのあけみ・NY在住)

月刊 酒文化2011年06月号掲載