手土産としてワイン、そしてベーレ!

 「Amore、Cantare、Mangiare !(アモーレ:愛 カンターレ:歌 マンジャーレ:食!)」の国、イタリア。その3大モットーのひとつ、「マンジャーレ」と、切っても切り離せないのが、「Bere!(べーレ、飲む)」であろう。が、ここの「ベーレ」は日本的な飲み方と微妙に違う。
 日本でイタリアブームになって15〜20年なるし、イタリアに関する知識や食品は日本でまったくめずらしくなくなった。また、イタリアを旅する日本人は、最初はミラノ、ローマとフィレンツェしか知らなかったが、今やトスカーナやウンブリア州のアグリツーリズモ(農家民宿。イタリアでは一般的)やシチリアの一番うまい魚料理を出しているレストランを知るまでなった。しかし、イタリア人が日本や日本人について抱くステレオタイプが変わらないと同様に、日本人のイタリアやイタリア人に関する固定観念は依然と根強い。それは「イタリア人は陽気で、お酒をよく飲んでいる」である。
 イタリア人は確かにお酒(ワイン)をテーブルから欠かさないし、頻度としてもよく飲んでいるが、これは食事と一緒にとる一杯に過ぎないことが非常に多く、お酒だけを飲むことはまずない。
日本人がご飯の時にお茶を飲むのと同じ感覚でワインを飲んでいるイタリア人だが、食事に誘われるときに必ずワインを持参するのが暗黙のルールである。家族や大勢の友人で楽しむ夕食、ホームパーティや定番の日曜日の昼食に招待されると、果物かお花か迷わずにワインを持参する。ここまでは一見シンプルで面倒くさくないように見えるが、実はワインの選択でかなり頭を痛めることもある。
 知人の家に招かれると容易だが、「友達の友達」の場合はかなり迷うことがある。お酒の国と言ってもお酒に詳しくない人が多く、どのワインでもいいからただ一本のワインボトルが雰囲気作りにテーブルに置いてあればという人もいる。一方、ソムリエほど詳しい人もたまにいる。ホストがワインに詳しくなければ、スーパーで買ったワイン、親戚や友人が田舎で造っているヴィーノ・ダ・ターヴォラ(テーブルワイン)を持参する。または、以前どこかのアグリツーリズモやワイナリーで買ったワインを持参するのが恥ずかしくない。
 ワイン通の家だと、どんなお酒を持参するか腕の見せ所。その人の好きなワイン、出される料理と相性のいいワイン、ガンベロ・ロッソ(権威あるワイン年鑑の発行元)などワインガイドで好評のワインにするか、かなりの難題である。遠くのエノテカ(ワイン専門店)まで足を運び、真剣に選ぶことが多い。また、以前ワイナリー巡りなどで買ったワインを持参しようかするまいか、かなり迷う。この場合は赤ワインだと、トスカーナ産かピエモンテ産、白だとフリウリ産、ヴェネツィア産、ジュリア産だとリスクが低い。
 ワインが詳しい人には、珍しいワインや外国のワイン、ポピュラーなスーパータスカン(さまざまな格付け規制にこだわらない上級ワイン)、またはデザートワインやグラッパも人気。そのワインに合ったチーズやや少しハイテックなワイン関連アクセサリーも喜ばれる。当然だがこの場合ワインの予算も上がる。
 しかし、やはりスーパータスカンにしても、フラスカーティ(ローマ近くのワイン産地で軽快なデイリーワインの代名詞)のテーブルワインにしても、それを飲みながら思い切って楽しむ雰囲気作りの上手さに感心する。こういうにぎやかな食卓があれば、安いワインでも、サッシカイア(代表的な高級スーパータスカン)でも楽しい。(シエイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2007年07月号掲載