泡物

 エレガントなグラスの中で琥珀色に輝き、無数の泡が繊細に立ち昇るシャンパン。他のお酒にはない華やかさと気品があって、口に含むと嬉しい気分にさせてくれる、魔法のような不思議な力を持ったお酒である。特に我々女性が、そんなシャンパンの気持ちを高揚させる特徴に魅せられている。
 フランス同様に、自国のワインにプライドを持つイタリアでは、シャンパン方式でつくられるスプマンテ(イタリアのスパークリングワイン)はシャンパンに対抗する人気を誇る。しかし、シャンパーニュ生産同業者委員会によると、〇六年のイタリアのシャンパン消費量は前年より五%も拡大し、九二八万四六九七本と世界五位を記録した。ちなみに同局によると日本は六位である。この人気の理由の一つはシャンパンが演出している、イタリア人が大好きなシックでお洒落な、そしてちょっと派手なイメージである。
 理由が違っていても、シャンパンの決め細やかな黄金色の泡立ちがもたらす華やかさ 私も好き。ワインほど手ごろなお酒ではなく、毎日一本は空けられないので、ずっと前からシャンパンをグラスで出す店の登場を夢見ていた。ミラノに次いで、ローマにもやっと念願の店ができて以来、私はその店にはまった。
 ローマの「ヴィーノ・ガラジュ」というバーではシャンパン以外のワインが置いてあるため、シャンパンバーと言えるかどうか分からないが、ローマでこれだけのシャンパンの銘柄をグラスで飲めるお店は、他にない。カウンター席のほか、七〇年代の雰囲気の肘掛いすとシャンパンのボトルが置かれているショーウインドウがある。日替わりのグラスシャンパンは九ユーロから一六ユーロまでと気軽に楽しめ、シャンパンが約五〇種類と充実している。そのほか、ワインやレアなビールも楽しめる。ボランジェやポル・ロジェのような大手生産者のシャンパンのほか、ガストン・シケやラクラパール・トレパイルのような小規模生産者や希少なヴィンテージ・シャンパンなども置いてある。気に入ったシャンパンはボトルでも買える。前菜からメイン料理まで幅広く合わせやすいといわれるシャンパンだが、生ハムとよく合う。ここのお店では二四ヶ月熟成させたパルマやサン・ダニエーレハムのほか、年間一〇〇〇本ほどしか造られていないコルモンス、オスヴァルドの燻製プロシュート、またはシチリアのネーロ・ディ・ネブロディハムが味わえる。アンチョビのカナペや魚の缶詰もこんなにおいいしいと初めて教えてくれたお店でもある。
 ソムリエがシャンパンの色合い、香り、味わいなどついて詳しい説明をしてくれるだけでなく、シャンパーニュ地方内での生産地や生産者についても教えてくれる。もっと深く付き合いたい人のために定期的に試飲会も開催される。
 トレンドを左右するミラノだが、ここにドルチェ&ガッバーナが昨年の秋にオープン。ゴールドを基調としたレストラン・バー『GOLD』でも芸能人とシャンパンがよく登場する。また、ミラノで今最も話題となっているのは、スワロフスキーのシャンデリアやワニの皮のソファで豪華なインテリアを誇る、イタリアで唯一ドンペリニヨンをグラスで飲める店である「カフェ・マラフェッメナ」。
 これだけシャンパンの味わいを知る機会が与えられると、この誘惑に対抗することができない。
(シェイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2007年06月号掲載