イタリアにも春が

 イタリア人も日本人同様に春が大好き。今年のイタリアは200年ぶりの記録的な暖冬で、花々がとっくに満開。春の意識が若干薄れた気もするが、日が段々延びてきて、春の香りが食卓にも届いている。太陽をいっぱい浴びながら外で時間を過ごすことが命のイタリア人は春が来ると、外で食事したり、アペリティーヴォを取ったりしている。
 八百屋さんの店先に春の到来を告げる野菜が並んでいる。イタリアの春の旬素材といえば、やはりそら豆、ビエタ(スイスチャード)、アーティチョーク、菜の花、ルッコラ、アスパラ。お魚なら鰆や白魚、イイダコ。お肉なら小羊が美味しい。
 春といえば、イエス・キリストの復活を祝う、伝統的には生命や復活そして春の象徴であるパスクアを忘れてはいけない。この日は家族で集まって食事をしたり、色とりどりに装飾された卵をプレゼントしあう。指輪などを仕込んだ特製チョコレート卵を用意して、恋人にサプライズする男性も! パスクアの伝統的なランチには卵のほか、ラム肉がかかせない。
 ラディッキョ・トレヴィザーノ(赤チコリ)は細身のチコリである。赤紫と白の大胆なコントラストが美しい。ほろ苦いラディッキョを使ったリゾットがイタリアで定評のあるリゾットである。また、アーティチョークは特にローマで春の食卓に欠かせない伝統の野菜である。ユダヤ風は揚げたもので、オイルに漬かったのはローマ風である。アーティチョークの中には、紫色を帯びた外観が特徴のロマーニャ種が食卓を春らしく色づける。
 春の野菜を使ったレシピの特徴は、長時間煮込まず、軽く火を通すだけの、シンプルな調理法である。そうすれば野菜のしゃきっとした歯ごたえと鮮やかな色合いが失われない。
 春のイタリアンにはやはりしっかり冷やしたドライ白ワインがぴったり。プロセッコやスパークリングワインで一食を通す人も。最近ワイン通の間に人気が上昇中のロゼワインは、花の季節に最適。先日ソムリエの友達に勧められ飲んだのはモンテプルチャーノ・ダブルッツォ・チェラスオロ。同ワインを使用したリゾットと一緒にいただき、そのフレッシュな味わいといきいきとした酸味のバランスに、そして華やかな色に驚いた。ロゼワインは、リコッタ・チーズのラヴィオリなど野菜のパスタにも相性が抜群。
 野菜のほか、春といえば新鮮なチーズが思い浮かぶ。水牛の乳より作られるモッツァレラは本物のピッツァに欠かせないチーズである。ラザニア、フライ、スライスしてトマトと重ねて等、食べ方が様々。最近ローマにはモッツァレラバーができ、南イタリアから届いている様々な新鮮なチーズと相性のよいワインが味わえる。また、リコッタ・チーズはチーズを作る際にできる乳清を加熱凝固させて作ったチーズ。さっぱりとした味でカロリーも低めである。お菓子作りやパスタなどに活躍する。フレッシュチーズには軽い白ワインやロゼワインがお勧め。
 一年中好まれる前菜のほか、パスタ、ピザ、リゾットなどと幅広く料理に活躍する生ハムは、春が来ると成熟したものではなく、薄い味の甘い生ハムの消費が伸びる。
 簡単にできる春の野菜パスタ、また季節感豊かな春のリゾットが春のイタリアンの主役である。菜の花と生ハムのリゾット、生のそら豆とペコリーノチーズ、春のベビーリーフのサラダ、ズッキーニの花のパスタは春の定番のイタリア料理である。春が来ると、バジル、タイム、セージやローズマリーなどのフレッシュハーブも人気。春のカクテルといえば、苺やさくらんぼなど春のカラフルな果物を使ったものが人気。
 食卓にもいち早くイタリアの春を招いてはいかが?
(シエイラ・ラシッドギル:コラムニスト、ローマ在住)

月刊 酒文化2007年05月号掲載