シュラスカリアで幸せなひと時

 ブラジルの代表的な食べ物は、シュラスコ(焼肉)と言えるだろう。「シュラスコ」そのものの意味は「肉を焼いたもの」。だから、日本で言う「焼き鳥」ならぬ串に刺して焼いた牛肉も、野外で行う「バーベキュー」も「シュラスコ」となる。
だが、一般的には大きな肉の塊をウェイターが持ち、各テーブル間のお客さんを回り、希望すればいくらでもお皿に切って食べさせてくれるレストランのことをイメージする。これを正しくは「シュラスカリア」と呼び、まさしく、ブラジルの代表的レストランである。初めてシュラスカリアへ行った時は「牛肉の部位ごとに呼び名が違い、しかもこんなに味が違うなんて…」と愕然とした。
 肉だけでなく、野菜やリゾット、パンやスパゲッティ、最近は寿司もバイキング方式できれいに並べられている。そんな食べ放題の店はどこで儲けるかというと、飲み物とデザートで儲けているのだ。
 ブラジルの店では日本のように無料の水は絶対に出ない。どんな大衆食堂でも高級レストランでも、何かしらの飲み物を頼まなければならず、それはすべて有料になっている。
 シュラスカリアも中級以上へ行くと、まず、入ってすぐにお酒とつまみを頼む。ちょっとしたバー感覚の食前酒コーナーが、待ち合わせ場所となっている。そこで酒だけ飲んでも構わないのだが、多くの人はお肉が回ってくるテーブルへ移動する。ボトルをリザーブすることもでき、常連客は好きな酒をリザーブしているために割安でシュラスコを楽しむことができるのだ。
 さらに、ほとんどの客が最後にデザートを頼むのだが、これが実は高い。でも、シュラスカリアに来た時ぐらいは贅沢をしちゃえ、と言わんばかりについつい頼んでしまう。「アレグリア(=楽しみ)を持ってきて」なんて洒落た言い方でデザート担当のウェイターを呼ぶと、ケーキやタルト、ムースやプリン、大きな飴などで飾られたデザート棚がやって来る。だがここで調子に乗って美味しそうなケーキを頼んでしまうと、日本人は大抵後悔することになる。なぜなら、甘過ぎるのだ。「甘い」を通り越えて、砂糖を食べているような感覚にすらなる。
 そんな数々の失敗を乗り越えて、結局、私が落ち着いたシュラスカリアでの最高のデザートは「クレーミ・デ・マモン」。アイスクリームとパパイヤをミキサーにかけたもので、カシスをふりかけていただく。店にもよるが、アイスクリームはバニラやストロベリー、パイナップル味やココナツ椰子味など選ぶことも可能。パパイヤは消化を助けると言われ、肉を思う存分食べた後にはとてもよく合う。ブラジル人もよく知っていて、この「クレーミ・デ・マモン」はシュラスカリアでは人気のデザートである。
 お洒落に食前酒で始まり、「もういい!」と叫ぶぐらい肉を堪能し、最後にはカシスがたっぷりかかった「クレーミ・デ・マモン」でしめる。何と贅沢で素晴らしいひと時の食事であろう。シュラスカリアに行った後は「あぁ、ブラジルにいて良かった」と心から思う。次の日、体重計にさえ乗らなければ…。(おおくぼじゅんこ・サンパウロ在住)

月刊 酒文化2009年12月号掲載