ビールの保冷は「コンドーム」で?

 日本は秋から初冬の季節へと向かいつつあるが、南半球にあるブラジルはこれからが夏本番。咽の渇く時にはいつものごとく、庶民にとってはキンキンに冷えたビール(セルベージャ)の存在は欠かせない。そしてこの時期に大衆飲食店のBAR(バール)などでビールを注文すると、必ずと言ってよいほど付いて来るのが、「カミジーニャ(コンドームの意味)」と呼ばれる保冷用具だ。
 特に、蒸し暑いリオデジャネイロや熱帯のアマゾン地域では、いくらキンキンに冷えたビールでもすぐに温くなってしまうため、この保冷用具は重宝されている。用具というほどの大層な代物ではないが、大切なモノであるビールを包み込み、冷たさを外に漏らさないという意味では、なるほど「カミジーニャ」という呼び名は納得がいく。
 最近は、写真のようなプラスチック製の保冷容器が主流となっているが、海岸の売店などでは発泡スチロール製の薄汚れた保冷容器が少なくない。それでも温いビールを飲むよりはマシで、店員さんが当然のように付けて持ってきてくれる。
 350ミリリットル缶用のカミジーニャもある。これはほとんどが発泡スチロール製だが、ブラジルらしく、各サッカーチームのマークが入っているものなどもある。ただ、気を付けなければならないのは、コップにビールを注ぐ際、カミジーニャの中に水滴として溜まった、決してきれいとは言えない水が一緒にコップの中に入りそうになってしまうことである。
 カミジーニャの話が出たついでに、本当の「衛生面」について言えば、ここ数年、缶ビールのプルタブの上面をアルミ箔で覆っているものも目立ってきている。ブラジルでは缶ビールはコップに注がずに、そのまま口を付けて飲むことも多いのだが、数年ほど前に衛生管理の悪い店で買った缶ビールをそのまま飲んだ人が死亡するという事件が発生。後で判明したのは、飲み口の部分に殺鼠剤が残っていたそうだ。そのため、缶ビールを飲む際には、飲み口をきれいな水で洗ったりすることもしばしばだが、こうしたアルミ箔の存在が近年では注目されている。アルミ箔が被せられていると高級感が漂うが、そうかと言って、必ずしも高価なプレミアム・ビールにアルミ箔が被せられているとも限らない。アルミ箔があるのは、何故かリオデジャネイロで作られているものが多いようだ。
 しかも、表面上は衛生面に気を遣っているように見えても、やっぱり「ブラジルらしい」と言えるのが、製品の「質」の問題である。とあるメーカーの缶ビールは、とても丁寧にアルミ箔が被せられているのだが、接着剤が多少強いのか、アルミ箔がはがしにくく、飲み口の部分にアルミ箔の一部が付着したままになってしまうことも少なくない。この辺がブラジルらしくて、「やっぱりな」と笑ってしまう。
 何事においても、物事が円滑に運ばないことが数多いこの国で、人々の諦めと割り切りの意味を込めて言う言葉が「ここはブラジル」という諦めとも、慰めとも付かない台詞。
 常に「飲み過ぎ」マークを貼られつつも「ここは、ブラジル! 身体のアルコール消毒さ」とか言い訳をしながら、性懲りもなくカミジーニャ付きのビールを飲む日が今日も続いている。(おおくぼこうじ:サンパウロ在住)

月刊 酒文化2009年11月号掲載