時代や文化とリンクしたお酒に関する旬の情報サイト
酒文化研究所ホームページ
会社概要酒文化の会メールマガジンContact UsTOP
イベント情報酒と文化コラム酒文研おすすめのお店酒文化論稿集酒飲みのミカタ特ダネ
海外の酒めぐり日本各地の酒文化見学できる工場・ミュージアム酒のデータボックスアジア酒街道を行くリンク集

日本と海外の酒めぐり
黄河下流域の酒を訪ねて
伝統と変革のリアル・エール  
 ブリテン島には今日2500種以上のビールが存在するといわれる。その多くはビールの元祖といわれるエールであり、なかでも伝統的な製法で醸造されたものはリアル・エールと呼ばれている。ビールの世界的志向がピルスナー・ラガーへと向かう中で、伝統と変革の間際にゆれるブリテン島のリアル・エールの今を探った。

世界最大のビールの祭典
 ビール愛好者のパラダイス−世界最大のリアル・エールの祭典「グレート・ブリティッシュ・ビール・フェスティバル2005」(CAMRA主催、以下GBBF)が、ロンドン・ケンジントン地区にあるロンドン・オリンピアで8月2〜6日の5日間にわたって開催された。2500種以上のビールがあるとされるブリテン島内から450種、世界各国から200種以上のビールが1堂に会し、イングランド、スコットランド、ウェールズ、海外諸国ではロシア、ドイツ、ベルギー、オランダ、アメリカ、オーストラリア、オーストリアのコーナーが軒を並べた。
 リアル・エールとは伝統的な原材料を用いて、余分な添加物を一切使わずに樽熟成されたエールのことをいう。主催するCAMRAは、キャンペーン・フォー・リアル・エール(Campaign for Real Ale)の略で、現在約7万5000ものメンバーを抱える、リアル・エールの品質維持向上と販売促進を促すボランティアの消費者団体である。
 フェスティバルには、テロ警戒の空気にも負けず4万7000人が来場し、合計24万パイント消費され、過去最大の規模を記録した。期間中はチャンピオン・ビールの発表やテイスティング・セミナーをはじめ、音楽イベントも催された。
 入場料はひとり7ポンド(約1400円)。入場後まず「フェスティバル・グラス」を手にいれる。そして自由に会場内を歩き回り、気になるエールを心置きなくテイスティングできる。会場全体が色とりどりのパラソルや、品質維持のために注意深くカバーされた山積みの樽とともに、グラスを片手に語らう人々の姿で埋め尽くされ、ビールファン、ビール業界関係者の交流の場として盛り上がった。


多様性をきわめるリアル・エールの世界
 ブリテン島はエールの宝庫だ。夏の平均気温は17度程度と、季節を通じて温度差が少ないため、上面発酵のエール醸造に最適の土地である。GBBFをはじめとするビールフェスティバルも、ブリテン島各地で年間を通して行なわれており、その多様性を知るまたとない機会となっている。
 エールは冷やさずに常温で飲む。種類もさまざまで、ホップの量が多く苦味の強いビター、ホップが少なめでアロマの強いマイルド、淡色のペール・エール、インディア・ペール・エール(IPA)、個性的なスコティッシュ・ストロング・エール、それに近年急速に人気が高まっているゴールデン・エール。また、ホップが多く色の濃いポーター、ポーターのひとつで辛口でクリーミーなスタウトなどがある。
 語り始めたらきりがないほどの奥行きをもち、味や香りをあらわす言葉も豊富だ。ハーブや果実、ナッツ、蜂蜜といった意外性のあるアロマや風味に出会えるのもエールの楽しみのひとつである。
 エールがビールの祖といわれるのは、19世紀後半に冷凍機が発明されるまで、世にあるほとんどがエールに代表される上面発酵ビールだったことからもわかる。上面発酵ビールは、常温(20〜25度)で発酵させ、主発酵は4、5日で完了するが、その間に酵母が液の表面に浮上することから上面発酵とよばれるようになり、エール、スタウト、ポーターのほかにベルギー、ドイツ産の伝統的なものがこれに属する。
 一方、日本で主流なのは下面発酵ビール。これは、もともと冬は寒く夏は暑い大陸性気候のミュンヘンで15世紀ごろから発達し、冬にビールを仕込み、低温(8〜12度)でゆっくりと発酵を行い、それが終了したらビールを樽に詰め、氷で冷やした地下室に貯蔵して秋までもたせるものだ。この方法では主発酵が終了すると酵母が発酵桶の底部に沈殿することから、下面発酵ビールつまりラガー・ビールと呼ばれる。

<<前頁へ      次頁へ>>