水割りお燗酒−バランスいい純米酒

 日本酒を水で割ってぬる燗で飲むと旨いというと驚かれることが多い。確かに一見すると邪道のように思えるが、これが意外に飲みやすくて、しかも伝統的に考えても恥じない飲み方でもあるのだ。
 日本酒ができあがった段階、いわゆる原酒というもののアルコール度数は18度〜20度近くである。ところが普通に販売されているお酒は、メーカーの段階でブレンド・割り水されて14度〜15度台のものが中心となっている。なぜそんなことをするかと言えば、飲みやすくするためである。世界中を見回しても、醸造酒でこんなにアルコール度数の高いものはないのである。
 しかし、江戸時代から明治前半まではそうではなかった。当時は蔵元から樽のまま原酒で出荷されて、それが問屋・酒屋へと渡る途中で割り水される。江戸時代の酒飲みの話で有名な千住河原の酒合戦などの記述では、一人で一斗(18L)以上酒を飲んでいるようだが、種明かしがこの水割りなのだ。たぶん江戸の町で一般に飲まれていた日本酒は10度以下、ビール並の強さだったのであろう。
 一方で、当然のことながら水で割ると味が薄くなる。江戸で灘酒が珍重された理由のひとつも、骨格のしっかりした酒が灘に多かったので、水で割ってもよく味が伸びたからであろう。私が試した範囲でも、水で割ると味のバランスが壊れてしまう酒もいくつかあった。
 今年の夏に私のお薦めは水割り日本酒のぬる燗である。夕涼みの下で、のんびりする時に最適である。酒と水は4対1位で水にも気を配りたい。純米酒で味のしっかりしたタイプのものは、比較的成功率が高いようで、今のお気に入りは宮城県の浦霞「禅」。これの水割りお燗はかなりおいしいです。

2003年08月09日掲載