■「酒感」のある器

 やきものに造詣が深い知人に、「酒器をほかの器と分けているものは何ですか」と聞いたことがある。茶碗なのか大ぶりなぐい飲みなのか判断できなかったり、片口でも酒を入れてもいいものなのかどうか迷ったりしたことが少なくなかったからだ。
 「その器で『酒を飲んでみたい』と感じるもの、『酒感』とでもいう印象があるものが酒器だと思えばいいのですよ」と彼は言った。「酒感」と聞いて、内心「はあ〜、よくわからないなあ」と思ったのだが、彼のコレクションの写真を見ているうちに、少しだけ言わんとするところを感じることができた。
 たしかに、あらためて眺めてみると「この器で酒を飲んだら…」という器があるのだ。ゾクっとするような緊張感や、丸みが嫌味なく艶っぽいものなど、これは水を飲んだり汁を吸ったりする器ではないと感じるところがある。
 先日、サントリー美術館でエミール=ガレの作品展を見る機会があった。ガレはアールヌーボ−を代表するガラス作家で、ワイングラスもたくさんつくっている。そこで「酒感」は日本だけのものではないことを、たしかに感じた。グラスから「二人だけで飲むグラス」という官能的な強い誘惑を感じたのだ。
 ガレがボトルをデザインしたペリエ・ジュエ社のシャンパンも素晴らしく、器と酒がマッチした時の凄みを実感した次第である。

2004年06月18日掲載