日本酒のハードル−言葉・制度・イメージ

このところ確かに日本酒は米国で人気を集めるようになってきた。対米の輸出量も過去八年間、毎年一〇から一二%の伸び率を示している。しかしそんな状況であってもまだまだ克服されなくてはならない問題点が存在する。米国やその他の国々で日本酒が直面する難問が三点。言語、法律、そしてイメージだ。
難問その一が言語であることは明白だ。米国の人々は日本語を読むことができない。だからいくら魅力的でもラベルは謎めいて見える。米国の法律で瓶の裏ラベルは必ず英語で書かれていなければならないが、表ラベルは日本国内と同じものを使うことができる。その表ラベルを輸出用に作成し、アルファベットで銘柄をのせるようにする酒蔵の数は、数年前に比べたらずっと数は増えたがまだまだ少数派だ。米国の小売店で観察していると、棚に並んでいる日本酒を目の前にして、わざわざ瓶をひっくり返し、裏ラベルに書かれていることを熟読する人は少ない。要はやはり表ラベルなのだろう。
またアルファベット表記されていても、ローマ字で書かれた日本語の銘柄を覚える、もしくは発音するの
は米国人にとって大変だ。加えて日本人でも完全に理解することがたやすくない日本酒の種類が書いてあると、余計にこんがらかってしまう。
難問その二は、米国のアルコール飲料の物流に関する法律。米国では消費者は小売商からのみ買うことができ、小売商は卸売業者ディストリビューターからのみ買うことができ、卸売業者は生産者も
しくは輸入業者からのみ買うことができる仕組みになっており、売る場合は逆方向のルートを辿る。つまり卸売業者は小売商もしくはレストランにだけに売ることが許されているので、売れないと困るから物品を大量に扱うことを好まない。だから例えば日本酒のような新しい商品が登場しても、彼らが知らなければ、もしくは自信をもてなければ、新しい商品には手を出さない傾向が強い。
そうなると町の小売商はその商品を手に入れることができず、消費者が欲しがって、小売商も扱いたいと思っていても、卸売業者が協力しないかぎり話は先に進まないのだ。
また、小売商やレストランは同じ州にある卸売業者から買わなくてはならない。カリフォルニア州やニュ
ーヨーク州ではものすごい数の日本酒人口がいるが、それ以外の州へ良質な日本酒がなかなか広がっていかない理由がこの法律なのだ。
三つ目の難問は米国人が持つ日本酒のイメージだ。日本酒は熱くして飲むものだとほとんどの米国人が思っていて、特定名称酒のような酒は少しだけ冷やして飲むと旨いということを知らない人が多い。そしてワインと同じように日本酒もデリケートで、香りや味を楽しむことができるということを受け入れられない人もいる。自分はワインについてよく知っていると思っている人に日本酒を試飲してもらうのが大変な時が多々ある。彼らは日本酒がプレミアムなアルコール飲料であることがまず信じられないのだ。
問題はまだある。商品が古くならないよう、物流の速度を保つようにしなければならないのだ。だが、状
況は良い方向に向かっている。質にこだわる熱心な小売商が増えてきた。海外における日本酒の消費と人気が増加していくことは、これからも多いに期待できる。

(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2004年07月号掲載