日本酒リストにひと工夫

 最近、アメリカでも日本酒が飲まれるようになってきた。その人気の高まりと共に何種類も扱ったり、酒のリストを作成するレストランも増えてきた。もちろん日本人と比べるとアメリカ人の日本酒の知識は浅く、酒のリストがあるからと言って何を注文すればいいのかわからない人がほとんどだ。そんな状況下で、レストランでは酒リストにどんな工夫を加えているのだろうか?
 まず一概に酒のリストと言っても、何十種類も置いてあるところはアメリカ全土でも数えるほどしかなく、酒のリストは比較的シンプルなものが多い。時にはワインリストのしっぽに加えられていることもある。
 リストが長かろうが短かかろうが、一番多く見られるのは値段の順に上から下へ表記するもの。これはかなり常識的な方法だが、アメリカでは日本酒を知らない人が多いので、表記された値段をそのままクオリティーの度合としてとらえる人も多い。
 さて、飲んでもらうためにどのような工夫をしているかだが、まず英語のニックネームをつけるという方法がある。アメリカ人にとって日本語の銘柄は発音することも記憶することも難しい。だからこれはなかなか効果がある。消費者は自分の気に入った酒を記憶することができ、次の機会にも活用することができる。
 次に日本酒に詳しいスタッフを店に置くという方法。アメリカでは消費者(客)がウエイターに必ず「お勧めは何か」と聞く。何を飲んでいいのかわからない客に対して、ウエイターまで何も知らなかったら、じゃあ日本酒はまた今度にしておくか、ということになってしまう。そうならないためにも、多くのレストランでスタッフを訓練し、日本酒について勉強させているのである。
 僕はつい最近ラスベガスのMGMグランドホテルにオープンした「Shibuya」という店で、スタッフの訓練をする役目を担った。訓練期間は四日間、毎日約三時間ずつ。若いウェイター達に日本酒の講義をし、毎日しめくくりとして筆記テストを用意した。とくに重要だったのは、全員に「Shibuya」で扱う六〇種の酒をすべてa酒させ、メモをとらせたことだ。そうすることにで客に何を聞かれても自信を持って勧めることができ、どの料理を合わせたら良いのか客に提案することもできる。
 アメリカでウエイターとして働く人々はより多くのチップを受けるために必死で勉強する。基本給は最低賃金に近いので、いかにチップをもらうかが即生活に結びついてくる。だから日本酒講義の時も、「一言も聞き逃さないぞ」という熱気が伝わってきた。また「Shibuya」では厨房スタッフとミーティングを重ね、主菜メニューのひとつひとつに三種類の酒をお勧めとして載せることにした。
 三つ目としてはサンプルセットを用意する方法。何種類かの酒を少量ずつ試してもらえるようにし、テーマを決めてそれに合った名前をつけたりしている。「新潟セット」「大吟醸セット」「辛口セット」などだ。
 それから他にも一般的な話として重要な点は、アメリカ人は新しいものに対して貪欲で、とにかくよく質問をするという点だ。難しい酒のリストに直面すると、ウエイターに質問を浴びせ、お勧めを聞き出し、後で必ず自分はどう思ったのか感想を言いたがる。
 そんなアメリカ人の国民性を考慮し、彼らのツボにはまるようなサービスの方法を発展させていけば、日本酒は、もっと多くの人々に浸透していくことだろう。
(ジョン・ゴントナー:日本酒ジャーナリスト)

月刊 酒文化2004年10月号掲載